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「遅くなりました!」
暗がりの中、ただ一つ明かりの灯る園長室に駆け込んだ。
生え際に白髪の目立つ初老の女性が本を閉じ、隣で黙々と絵を描いていたゆらが手を止める。
「パパ!」
「ゆら~ごめんね遅れちゃって…。」
机の横に用意してあった荷物も放って駆け寄る我が子は…とても……可愛いッ。天使だ。こんな天使を遅くまでほったらかしにしていたなんて僕の神経を疑うよ。
後からやってくる園長先生の手にはウサギのキャラクターがプリントされている手提げかばんがぶら下がっており、受け取ろうと伸ばした手を
──阻止される。
「こら!おくれんぼさんのパパは、先生にごめんなさいです!」
「うっ…。」
「待たせんぼさんのパパはさいてーさいあくです!」
「ぐはぁっ…。」
最低最悪…。またお友達にキツい言葉を教えられたものだ。
だが、悲しい事に何も言い返せない。
「園長先生、迎えが遅くなり大変申し訳ありませんでした…。」
「いえいえ、構いませんよ。」
腕からよじ登るように僕の胸に収まったゆらに、先程より更に近距離で鋭い視線を向けられる。
お待たせしてしまった園長先生にも気を遣えるいい子なんだね、ゆら。パパは嬉しい。あぁ睨んだ顔も可愛いね。君は僕の女神さまだよ。
肩にかばんを引っ掛け、日毎に大きくなるゆらの成長を感じながら園を出た。片手で抱えているのも、随分負担がかかるようになったな。心も身体もどんどん育っていくさまを優里に見せてやれないのが、少しだけ寂しく思ったりもして。
「パパあのね、あいちゃんのママが今度あそびにきてもいいよって!」
「そうなんだ!よかったね、ゆら。」
この子がいつ、他の子どもには当たり前のように存在する母親が居ないという事実に疑問を覚えるのか。
いつ、どんなタイミングでどこまでを話せば理解できるのか。僕を嫌わずにいてくれるのか。
成長していくというのは、嬉しいようで、悲しいようで、常に恐怖が付きまとうものだ。
…今は、まだ。
君が僕を好いてくれている間は、とびきりゆらを甘やかさせて。
「そうそう、ゆら。今からちょっとパパとお出かけしない?」
「お出かけ?いいよっ!ゆらいっしょに行く!」
「やったー。じゃあ先ずは、お出かけの前の準備しに行こう。」
ゆらと過ごす時間も欲しい、だが竹内さんの精神状態も心配。悩んだ末に出した答えは、ゆらを連れて竹内さんのご自宅にうかがう事だった。
勿論、行くからには手土産を持って。
…なんて言っても彼の煙草と曇りづらいマスクの一つでも買っていこうかと思っているくらいだが。
大体の家の場所は把握している。非喫煙者ながら彼の愛煙しているそれの銘柄も。
だからわざわざ教えを乞う為に向かう訳では無い。これは、僕の単なる好奇心。
いつか竹内さんに連行され…いや、尾行させてもらった際に立ち寄った例のコンビニ。
1日走り回って疲れたゆらの事も考え入口付近に車を止めれば、レジカウンターの向こうに……居た。彼で間違いない。
ゆらの手を引き入店すれば、お決まりの台詞が唱えられる。
「らっしゃせー…………ッ?!?」
「こんばんは。」
僕に続いてゆらの挨拶が聞けた事で大喜びしたのは言うまでもないが
佐々木君の目を見開いた間抜け面もまた、想像通りで笑ってしまった。
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