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*169.
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何故か幼い娘(多分)を連れてやってきた三日月ヤローは、俺の顔を見るなり鼻で笑った。
何て嫌味な奴なんだ。こいつの事は言うまでもなく大嫌い。竹内さんを泣かせるし、竹内さんをたぶらかすクソ男だから。
「こんなトコに何の用ですかー。」
オーナーがドリンクの補充をしに行ってくれていて助かった。
もし客にこんな事言ってんのを聞かれていたら、文句つけられるくらいじゃ多分済まない。
他にお客さんがいれば俺だってもう少し営業スマイルで対応出来たかもしれないが、生憎今ここに居るのは俺とコイツ…と娘だけ。わざわざ取り繕う必要も無いって事だ。
「何の用と言われても…コンビニに入るのに、買い物以外の理由が必要かな?」
「…っはぁーい。そっスねごゆっくり。」
憎たらしい笑みを顔面に張り付けたまま、三日月ヤローは娘の手を引き視界から外れた。だからって、見えなくても会話は聞こえるし、事務所に入って不貞腐れてりゃ監視カメラに映る。俺がムカついてんのは全部全部こいつのせいだってのに、それだけじゃなく竹内さんにまで自暴自棄な事をさせた男を簡単に受け入れられる程俺の心は広くはなくて。
お前の顔も見たくなかったけど、同じくらい娘の事も見たくなかった。
まだ竹内さんを応援するだけの度量は持てていないけど、それでもこの光景に誰より悲しむのは竹内さんだって、わかるから。
人が嫌だと思う事はするなって教えられた事ないわけ?最低だよお前。
全くの他人から見れば何処にでもいる親子の姿。でも俺にとってかけがえのない存在であるあの人から見れば、どこまでも残酷で、魂が眩暈起こすくらいの悍ましいものだ。
なんて、そんな事ちっとも考えてないヤローは精一杯腕を伸ばす小さな手をしっかりと握り、マスクといくつかの駄菓子を手にレジ前へ立つ。
本音を言うと今からでもオーナーと補充係を変わりたい所だが、仕方なく廃棄時間を過ぎたパンを力の限り捻り潰して事務所を出た。
お前は何の罪も無いよ、ごめんねジャムパン。
「…ざーす。袋いります?」
「二つに分けてもらえると嬉しいな。お菓子と、こっちと別で。あと──…。」
三日月ヤローの視線は俺の後ろ側へ。
所狭しと並ぶ色とりどりの煙草達へと移る。
竹内さんに限らず常連客の買う煙草は覚えているし、番号を覚えてないような客なら銘柄を聞いたり視線の先を追っかけてやったりするものだけど、こいつに対してそんな心遣いする気はさらさらない。せいぜい見つからなくて諦めて帰れよバーカ。
そう思い、合計金額を口に出そうと息を吸った時だった。
「75番を2つ。」
「は、ぁ?なんでそれ…。」
別に珍しいものじゃない。その銘柄を買いに来る客も沢山いる。
だが、ある特定の声色でのみ聞き慣れた番号を三日月男が発するのは、どうも胸騒ぎがして。
「なんでって言われても…。竹内さんが吸っているものだからね。」
「な、…っ。」
嫌な予感が的中するのは、そのすぐ後の事だ。
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