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「おま…おっ、おま、なんて事……。」
息の仕方を忘れかけ、危うく泡を吹く所だった。
よりによって何故一番の被害者にそういうこと言うんだ。
だってアレだろ、俺は勝手に迫って落ち込んで会社を休むカス中のカス。佐々木は修学旅行の振替休日でありながらも、しっかりと彼の職務をまっとうしたのだ。
……大人の男に、襲われておきながら。
被害者ぶるのも大概にしろ、と幻滅するアイツの顔が簡単に頭に浮かぶ。今だって、バイト帰りの自転車を乱暴に走らせているのが想像出来る。
アイツはまだ高校生だ。不安定な心は時に誰かを傷つけ、何より自分を傷つける。
もしも帰り道に注意力が足らず交通事故にでもあっていたら…。
「佐々木が死んだらどうするんだお前…。」
「竹内さん落ち着いて。全く話が見えません。」
少なくとも俺が嫌われた事は確実だ。
怖かったんだろう、一刻も早く逃げたかったんだろう。だから、朝目を覚ました時にはもう…俺はここに一人きりだったんだ。
それでも自らの精神力を何とか保ち、俺が立ち寄るかもしれない恐怖に打ち勝ちアルバイトを頑張った。そもそも佐々木の心が強いだなんて俺は思っていない。だってあの夜、暗闇の風呂場で蹲るアイツは酷く怯えて可哀想だった。
そんな健気で一生懸命な佐々木を他所に俺は、正社員でありながら当日欠勤。加害者の癖に仮病を使って身勝手に病んで。
背が高い、格好良い、大人…今まで佐々木は沢山俺を褒めてくれた。その全てがまるきり嘘だ。
身長は言うまでもなく、弱くて女々しい責任感も無い最低な人間。
何処までも情けなく惨めな俺に、ただでさえ恋を諦められない佐々木が振り向いてくれる可能性など、本当に、もう──。
「…ぅ、ひぐっ……うぅ〜〜…っ。」
「な、え…竹内さん?何泣いて…。」
「ぱぱ!何でおにーさん虐めるの!だめでしょ!」
「えっとこれは、あのね…ゆら違うんだよ。」
「うううぅ〜〜…っぐす、んっく…。」
「ぱぱぁ!!!!」
堪えきれず溢れた涙を袖で拭えば、何ともカオスな光景が広がるのであった。
「──落ち着きました?」
「……っん、すばん…。」
腫れぼったい目元と殆ど息も吸えない鼻。気を抜けば垂れて来そうな鼻水をティッシュで押さえつけ、ようやく言葉を発せるくらいには回復した。
「お、前に相談っが、あって…。法月にしか、はなっせない事、だっ。」
あてがっていた部分から順にしんなりしてきたティッシュを屑入れに放り、溶けて繋がった氷を転がして口に運ぶ。
法月は少し考える素振りを見せた後、自身のスマホをゆらちゃんの膝に置いた。
「パパおにーさんと仲直りするから、いい子のゆらはアニメ見ながら待てるかな?
さっき買ったお菓子も、今日は特別に今から食べていいよ。」
「ほんと?ゆら待てるよっ!あくしゅしなきゃダメだよ!」
仲直りの握手、か。確かに幼稚園の先生によく言われていた気がするな。
悪い事をしたら謝る。謝られたら許す。仲直りの印は視線を交えた握手だと。
俺が謝ったところで、佐々木は許してはくれないだろうけど。
「…お待たせしました。ゆっくりでいいので、聞かせてもらえますか?」
「……あぁ。…昨日、帰りに佐々木のコンビニに寄った時──。」
みっともない姿を目の当たりにしてもなお態度を変えない、こんな俺が好きと言う変わり者の部下に
今日も俺は、泣きつき甘えて、彼の気持ちを利用する。
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