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『おい、てめーら何してんの?』
『は?お前…佐々木?ハッハ、兄貴のダチが来たぞ〜?なあ佐々木ィ、テメェも殺されたくなきゃ大人しく──ひっ?!』
いつか竹内さんから“大切な人を守る為”に貰ったナイフを、そいつに向けた。
『お前らこそ殺されてぇの?そいつ俺のダチが大事にしてんだわ。今すぐ離れろや。』
勿論、本当に傷を負わせようなんて思ってなかった。その場だけでも相手が怯んだら、隙をついて解放してやれるからって、それだけだったんだ。
だけど、俺の考えは甘かった。
次の日には親まで学校に呼び出されて、下手すりゃ年少に入れられんじゃ無いかってくらいあの子を襲った側は言いたい放題。事情を聞いたこーちゃんとその家族が必死に庇ってくれたお陰で、俺の人生が滅茶苦茶になる事は無く、転校という形に落ち着いたのだった。
力で負ける相手ではなかった。始まりなんて、そいつらのダチがこーちゃんに突然喧嘩売って返り討ちにされたってだけだし、所詮類友なザコくらい何とでもなったんだ。
でも、犠牲になるのは俺1人じゃなかったから。もしもの時があって、こーちゃんの弟が何かされたら多分…耐えられなかった。昔の自分を見ているようで。
ボロボロで逃げた自分に手を差し伸べてくれたヒーローに、俺もなりたくて。
竹内さんはずっと俺のヒーローなんだ。愛おしくて、可愛くて、だけど格好良くて、憧れで。言葉に出来ないくらい、大好きで大好きで仕方ない。
そんな凄い人に好かれているだなんて、何て馬鹿な妄想をしていたんだろう。
「あ、次でオレ降りる駅だ…伊織どうする?」
「俺も降りる。ここなら乗り換え行けるし。」
「おう。」
俺の人生、気づいた時にはもう竹内さんだけを見てたんだな。竹内さんが俺の全部だった。
ここまで彼への気持ちが大きくなってしまうだなんて思ってなかったし、そんな彼を自ら傷つけ、汚してしまうだなんて…これっぽっちも考えた事無かった。
竹内さんの気持ち、本当は理解してあげて、理性で踏み止まるだけの余裕を持っていなきゃいけなかったのに。絶対竹内さんに嫌われた。もう許してもらえないかもしれない。
……だけど。
鳴らない電話を握りしめ、深く息を吸った。
謝ろう。俺が謝らなきゃ。
ちゃんと話して、聞いてくれないかもしれないけど、それでも。
今度こそ気持ちを伝える。きちんと失恋もさせてくれないまま諦めろなんて、はなから無理な話だったんだ。これきりでいい。会えなくなってもいい。最後に、好きって言いたいよ。
もう一度この地に立って決心がついた。
地元に帰ったら、竹内さんの家へ行こう。
電車の扉が開き続々と乗客が動き出す。波に逆らわずホームに出たところで、入れ替わる人々の中、ある男女とすれ違った。
女は知らない。見たこともない。でももう1人の方は──。
一見長身でスタイル抜群。梅雨も明け、いよいよ夏本番だというのにぴったり顔に貼り付けられたマスク。
「な、んで…佐々木ッ。」
僅かにマスクの外へ溢れた世界一大好きな声を、俺が聞き逃すわけがない。
発車のベルが響く中、電車に乗り損ねたまま立ち尽くすその人は、今の俺の全部を作り上げた人だった。
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