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06
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次の日、大和の住んでいたというアパートへ行くと、思ったよりも清潔だった。
母親が逃げ出しただけあって重要なものは置いていないが、大和の衣類などはそのままだ。これだけあれば、十分だろう。
それらをすべて段ボール箱に入れて車に運ぶ作業を続けていると、部屋はだんだんと質素になってきた。
そんな中、柊一はふと大和はどんな心境なんだろうかと心配になる。
「おい、大和…」
「はい?」
だが、そんな心配もよそに、大和はいたって普通に見えた。いや、それどころか少し楽しそうでもある。
「…お前、本当にいいのか?」
「え?何がですか」
「…ここにいれば、母親が帰ってくるかもしれないだろ」
「…ああ……」
今気づいた、とでもいう様子の大和は、静かに首を振った。
「いいんです。あんな人は…」
「…そうか」
” あんな人 ”か。
まぁ、俺も父親に対して軽蔑の感情を抱いていただけあって、大和の言い草にいちいち疑問を呈するようなことはしない。
でもやっぱり、高校生がこんなだと、寂しいものがあるな。
…これから、俺が親代わりになるんだ。俺と同じ思いをさせないためにも、大事にしてやらねぇと。
「よし、じゃあ行くか」
車に荷物を全て載せると、柊一は車を発進させた。
走行する車内の中、ラジオの音だけが響く。
だが、その空気は決して重いものではなく、柊一はどこか心地よさまで感じていた。
「……」
そんな柊一の横顔を盗み見ながら、大和は不思議な気持ちに包まれる。
最初はあんなに自分のことを嫌がっていたのに、今は全然そんな感じはしない。どんな心境の変化なのか。
…それに、結局あの後、柊一さんは眠らなかったんじゃないだろうか。だって、眠ったようには見えなかったし。
それにしても、柊一さんのベッド、気持ち良かったな。すごく、いい匂いがするし。
「なぁ、大和」
「っ……あ、はい」
突然話しかけられて、大和はとりつくろったように表情を作る。
それに気づかないまま、柊一は赤信号で車を止めた。
「悪かったな」
「え……何がですか?」
「…葬式では散々お前に当たっちまって…大人気なかったよ」
「…いえ、気にしてませんから…」
自分を引き取ってくれただけでもありがたいのに、謝られるなんて。
最初は怖い人だと思ってたけど、実はいい人なのかもしれない。
すると、ポン、と頭の上に手が乗った。
「俺の所に来てくれて、ありがとな」
そして、信号が青に変わり車が発車する。
頭の上から離れた手は、ハンドルを掴み、柊一は何事もなかったかのような顔で前を見ている。
対して大和はと言うと、初めて頭を触られたことで、なんだか心の中に踏み込まれたような、そんな感覚に震えていた。
「っ……」
ああ、なんで、こんなにも幸せ。
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