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柊一さんは、なんだかんだで面倒見がいい。
最初は怖かったけど、今は全く怖くない。料理も上手だし、毎日お弁当まで作ってくれる。一緒に寝ようと提案した時はドキドキしたけど、結局折れてくれた。
…あんなに安心して眠れた夜は初めてだ。やっぱり、誰かが横にいてくれると、心地がいい。
「おい、大和!話聞いてんのか?」
「……え?」
目の前で不機嫌そうに自分を見る友人、智也の姿に、大和はふと我に返った。
「ああ…ごめん、聞いてなかった」
「ったく…なんかお前、最近ぼうっとしてること多いよな」
「…そうかなぁ」
智也は購買で買ったパンを一口頬張ると、それで、ともう一度同じ話を再開する。
「お前んちにはいつ行けんの?」
「あ…それ、まだ柊一さんに聞いてなかった」
「はぁ?なんだよそれ、忘れてたってこと?」
「いや、まぁ…色々忙しくて。今日聞いて…」
「いいやもう待てない。今日の放課後行ってやる」
「え?ちょっと、それは……」
「なんだよ。友達が来るのも怒るくらい、心の狭いやつなのか?」
そんなことはもちろんない。ないだろうけど…。
一応居候の身としては、まだ一ヶ月も経たないうちに家に友達を無断で連れてくるなんて、なんだか申し訳ないというか…。
そんな大和の気持ちはつゆ知らず、智也は友人として大和のことを心配する気持ちが大きいあまり、無理やりに話をまとめた。
「じゃあ、決まりな!放課後一緒に行くぞ」
「ええ……」
そう言い放ち、飲み干したバナナオレをゴミ箱に捨てに行った智也を見送る。まったく、いつもアイツは自分勝手だ。
…柊一さん、怒るかな。怒らないといいけど。
*
「お邪魔しまーす」
「声大きいよ…」
放課後、智也の押しに負けて、大和はこうして家に連れて来てしまった。昔から誰にでも強く言えないことがコンプレックスで、大和は自己嫌悪しながらも玄関の靴を確認する。
しかし、それよりも早くヒョイとリビングから柊一が顔を出した。
「おう、おかえり大和。友達か?」
「あっ…はい。すいません突然連れて来……」
「初めまして、智也です。コイツの保護者が変わったって聞いたんで、見に来ました」
智也があまりにも正直に言うもので、大和は「ちょっと、何言ってんの?」と小さく耳打ちした。そんなことを言われて、気分のいい人はいないだろう。
だが、柊一は驚いた顔をした後、困ったように笑うだけだった。
「あー……そう。まぁ好きなだけ見てって」
「はい」
「……すみません」
友達思いなヤツじゃねぇか、と柊一は大和に言ってやったが、当然智也の印象は最悪だった。しかしそこは大人として、冷静な対応をしただけで。
実際、ただの友達にとやかく言われる筋合いはないし、適当に受け流せばいい。
柊一は着替える途中でほどきかけていたネクタイをとると、リビングへ入って来た二人に向かって告げる。
「あ、お前のベッド届いたから、部屋に置いといたぞ。そのほかの家具は…まぁ徐々にでいいだろ」
「ああ、はい。ありがとうございます」
柊一はそう知らせることで、遠回しに”遊ぶなら自分の部屋で遊べ”と言っていたのだが、智也はそれに逆らうように、自室に戻ろうとした柊一に向かって質問をぶつけた。
「なんで大和を引き取ったんですか?」
「……え?」
「と、智也!」
やっぱりこうなった。
智也の腕を引っ張りながら柊一の顔を横目で見ると、不機嫌そうに眉を寄せていた。顔に出やすい柊一に、不快感を隠すなど無理な話だったのだが。
「なんでって…コイツと暮らしたいと思ったから。残されたもの同士、家族になれば万々歳だろ」
「大和の母親のことは、無視ですか?探そうとは思わないんですか?」
「っ……智也、もういい加減に…」
今すぐ智也を、家から追い出さないと…!
大和は智也の腕を強く引きかけた。しかし、それを柊一が目で制す。
柊一は真剣な様子の智也の目の前に立つと、まっすぐ智也の目を見た。
「それは大和が決めることだ。他人の俺やお前が口出すことじゃねぇだろ」
「俺は他人なんかじゃ…」
「じゃあお前が今から働いてコイツを養えよ。学校辞めて自分で飯作って洗濯して、テレビ買ってソファ買ってベッドで寝りゃいい。その合間に大和の母親探して旅でもするか?そこまですれば、他人なんかじゃねぇな。それこそ家族だよ、血なんか繋がってなくても」
「っ……」
「…柊一、さん……」
大和の驚いたような顔を見て、柊一は少し言いすぎたと後悔した。しかし、智也の気まずそうな顔を見て、やっぱり言ってよかったと思う。
こう言う奴は、はっきり言っておかないと後々しつこくなる。
俺のことも、大和のことも…何も知らないくせに。
「…俺は、大和が大事だ。たった一人の弟だからな」
「っ……」
「自分の世話もできねぇガキが、口出すんじゃねぇよ」
柊一は心底気分が悪いとでも言うように、智也にそう吐き捨てて自室のドアを閉めた。
残された二人の間に、沈黙が落ちる。
大和は正直、柊一の本音が聞けた気がして少しスッキリしていた。それに、自分を”大事な弟”だと言ってくれた。それだけで、満ち足りたような気持ちになって、思わずにやけてしまう。
対して智也は、最初の威勢を失い、どこか放心した様子でふらりとリビングを出て行く。
「と、智也…?」
「帰るわ……」
引き止める間も無く出ていった智也に呆然としながらも、ホッと息を吐きたい気分だった。
あの智也をあんなに落ち込ませるなんて、柊一さんはやっぱりすごい。少し言いすぎな気もするけど、智也も失礼な部分があったのは確かだし…。
着替えを終えた柊一は部屋から出ると、一人で佇む大和の姿に「あれ?」と声をあげた。
「友達、帰ったのか?」
「あ…はい。なんか、納得した…みたいです」
「…悪いな。俺も大人気なかったかも」
「いえ!智也の常識がないだけです!本当に連れて来てすみませんでした!」
「いや、別にいいよ。…っていうか、お前にあんな友達がいて安心した」
「…あんなって?」
部屋着に着替え、冷蔵庫から麦茶を取り出す柊一の背を見つめる。
柊一は「いや、悪い意味じゃなくてさ」と小さく呟いた後、大和を振り返った。
「友達が心配で大人に喧嘩売りにくる高校生なんて、普通いねぇよ。…大事にしてやれよ、アイツ」
「………は、はい」
「あと、明日も落ち込んでるようだったら”言いすぎた”って謝っといてくれる?」
冗談ぽくそう言って苦笑した柊一に、大和は笑い返した。
柊一さんには悪いが、やっぱり今日、智也を連れて来てよかったと思う。
柊一さんの本音が少しわかったし、どんな人かってことも、なんとなくわかってきた。やっぱり、この人となら絶対に上手くやっていける。
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