アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
1 見えざる者
-
「…、ふぅ」
堪らず吐いた息が、教室に響く。
一通り弾き終わってギターの弦から離した手を開いて見てみれば、じっとりと汗ばんでいた。
まだ夏前の時期だけど、最近は少しずつ気温が上がり閉め切った教室は蒸したように暑くなっていた。
一応は部の練習場所の一つなんだけど、ただの空き教室だからエアコンも何もなく。
しかも長年放置されてたから埃っぽいし、コンセントも塞がれてて電子楽器が使えない。
そんな良いとこなしの所を誰かが使うはずもなく、俺は誰も使ってないのを良いことに決まってここで毎日練習していた。
「暑い…」
一旦練習を中断し、とりあえず熱気を逃がすために窓を開けてはみたものの風一つ吹かなくてちっとも涼しくならない。
仕方なくギターをスタンドに立て掛け教室を出た。
汗で肌に貼り付いたシャツをパタパタと煽って風を送りながら水道のある場所へと廊下を歩く。
窓の外に目を向けると、外はもう夕暮れ時で校庭で活発に動く運動部の人達をオレンジ色に染め上げていた。
ふと、その一角に小さな人だかりが出来ているのに気付く。
丁度校門辺りだろうか、大多数が女子生徒で構成されたその塊は校舎に向かってゆっくりと移動していた。
誰が中心にいるのかは直ぐにピンと来た。
と言うより、そんな人だかりが出来るだけの人物はこの学校に一人しかいない。
そう言えばライブあるとか言ってたな…。
副部長の松阪日暮先輩だ。
今話題のロックバンドのボーカル担当でもあって、しかも容姿端麗で温厚な人柄。軽音楽部でも俺のクラスでも何かと話題が持ちきりなほど人気が高い。
部員の大半は副部長目当てで入ってる感じだし。
まぁ俺もその節はあるが。
まだ大きな会場ではしてないが、この勢いなら近い内にアリーナとかでもし出すんだろう。
「お、いたいた。高野くんー」
水を飲み終わった後でもまだ出来ている人だかりをぼんやり見つめてたら、聞き慣れたハイトーンボイスに名前を呼ばれる。
振り返ると、向こうから歩いて来る部長が。
「あ…部長お疲れ様です」
「お疲れ様ー、何見てんの?」
部長は横に立つと同じように目を細め、やがて「うわぁ、女子の群れだ」と何か恐ろしいものでも見たかのように身震いして見せた。
「あれ絶対まっつんだよ。相変わらず凄まじい数の人からお迎え食らってんね」
「なんか…いつもより人いますね」
「ほら、今回のライブplusでやった会場の中でも一番大きかったからさ。益々認知されたんだろなぁ」
窓から少し身を乗り出して部長がのんびりと言う。
当たり前のように規模の違うことをしていて流石、人気急上昇中のバンドグループは違うなと遠目に見ながらそんな事を思った。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
2 / 3