アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
俺の弟
-
「京ーーー!!」
明るく眩しい笑顔から発される声はこれまた明るく元気いっぱい。
目立つ、目立つ、どこに居ても目立つ。
まずその背後に大量に群がっている女の子の群衆が目立つ。
俺の弟……慧は、尋常じゃなくモテる。
少女漫画に出てくる王子様みたい。
対して俺こと紫月京は根暗で誰も近寄ってこない。慧は「京がカッコよすぎるからだよ~」なんて調子良いこと言うけど絶対嘘だ。世間ではモテてる人間ってのはお前のことを言うんだ。
俺が身構えたからか、女の子達を早々に解散させて、ぴったり俺の隣につく慧。今でもお兄ちゃん大好きなところだけが幸い。「モテない京の隣にいたら俺もモテなくなりそうだから」とか言われたら泣く。
「慧、お疲れ。今帰り?」
「うん、京探してた」
この懐きっぷりだからその辺は当分心配要らないだろう。
「女の子たちはいいの?」
「いいのいいの、ほっとこ。あの子達何科かも知らないし」
慧は女の子達に愛想良く話しているが、俺が女の子の話をすると途端に拗ねる。
なんだ、同じ俳優科の子じゃなかったのか……知り合いでもないのによくあんな大勢の女の子と話せるな。俺なら緊張して固まっちゃう。
俺達は大学で映画について学んでいる。俺は監督科3年生で、慧は俳優科1年生。きっと慧は将来イケメン俳優って持て囃されるんだろう。そんな未来がありありと浮かぶ。
が、将来期待大な弟は俺の前ではぐうたらで甘えた、しかも自分を好いてくれる女の子には猫を被っていて裏では愚痴ばかり。やれうざいだの、やれ面倒だの……。今も俺の腰に腕を回してぴったりとくっついて来ている。よしよしと頭を撫でてやると嬉しそうに笑った。
「女の子の悪口とか大声で言い回ったりするなよ。弟は明るくて優しくて可愛いって紹介してやってるんだから。」
「可愛い!?」
そうそう、自慢の可愛い弟……。
女の子から褒められてもほーん、ぐらいしか言わない慧が、俺からの褒め言葉は素直に受け取って、喜び舞い上がっている。猫被ってる時よりこっちのほうが可愛いよ。でもこの甘えん坊な態度は俺だけの特権。なぜなら、俺はお兄ちゃんだからだ。
「慧、DVD借りたいんだけど寄っていっていい?」
つんつん、とつついて呼びかけるが、喜びに浸りすぎて反応が遅い。
「慧」
「はッ、ぁ、DVD?いいよ」
我に返ってくれて安心した。
大学から家までの帰宅路は結構都会で店や人通りも多く、ぼーっと歩いてて事故に合ったりとかしたらたまったもんじゃない。
一応慧が危ない歩き方してないか気をつけながら隣を歩きDVDショップへ。心配してるって言ったら、きっと俺の事何歳だと思ってんの!?って言うんだろうな。
「……って言ってもさ、今日借りるもの何も決めてないんだよね。慧のオススメとかある?」
「ぇ、俺!?俺いつも京が借りたいやつしか見てないけど……じゃ、これ」
俺は昔から映画が好きで、だから映像監督目指してこの大学に来たけれど、慧はそうでも無かった。俺が観るから観る。それだけ。つまんないと寝ちゃうし。そんな慧が選んだのは海の動物に密着したドキュメンタリー。昔から海の動物が好きで、慧のベッドの上は白くまやイルカのぬいぐるみがいっぱいだ。
「いいよ、じゃあ今日はこれ観ようか」
イケメンに成長してしまった慧が眩しすぎて、昔と変わらない無邪気な俺だけの慧が見えた気がして嬉しかった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
2 / 12