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もう離れられなくて#4
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「今日は朝から学校来れたみたいだね。
えらいね、教室でしっかり授業は受けてきた?」
氏原先生の、いつも通りの優しい笑顔とぬくもりが、
僕を包み込む。
今日も僕のことを見ていてくれたんだ!
…なんて、そんなわけもなく。
僕が朝から登校していたことを知っているのは
ただ単に、健康管理表を各教室に取りに行くのが養護教諭の仕事の一つだからである。
「うん!昨日氏原先生とやった続きだったから、
結構理解できたと思う。」
「わ、本当?よかった、兎毛成君の力になれて。」
小さく手を叩きながら嬉しそうに僕に微笑みかける氏原先生は、やっぱり今日も可愛らしい。
ふわふわの柔らかそうな髪が揺れて、
室内に差し込む日の光でいっそう輝いて見える笑顔。
こんなに美人で、可愛い人なんだ。
氏原先生のことを好きになるアイツの気持ちもわかる…
なんて呑気なことを考えた所で、
奏楽さんは何故僕なんかを相手してくれているんだろうと疑問が浮かび上がるだけだ。
これまで毎日のように過ごしていたこの場所で、
ふと、奏楽さんと出会ったあの日を思い返す。
眠っている姿に見惚れ、気付けば目が合っていた。
吸い込まれそうな漆黒の瞳。
艶やかな黒い髪とは対照的な、
初雪ほどに繊細で白い肌。
僕が彼に惹きつけられた理由は、
紛れもなく、一目惚れ。
じゃあ、奏楽さんはーー…?
疑問が大きくなれば、それを聞かずにはいられない性分だ。
僕はすぐ前に座っている、
頼りがいのある大人にその疑問をぶつけてみた。
「ねぇ、氏原先生。
…人を好きになるきっかけって何だと思う?」
僕の突然の問いかけに、先生は急にどうしたと言わんばかりに首を傾げて不思議そうな顔をする。
……まあ、そうだよね。
急にそんな事聞くの、おかしいよね僕。
でも仕方ないじゃん!!
そんなこと聞ける相手、氏原先生の他に知らないんだもん!
なんだかからかわれる気がして、馬鹿にされる気がして
急に恥ずかしくなってきた。
顔がだんだん熱くなる。
「ごめん、先生やっぱり今のなしで…。」
そう言いかけたが、氏原先生にはどうやら
僕の弁解はもう聞こえていないみたいだ。
ーーあざとさすら感じる仕草。
これを計算とかじゃなく、素でやっているとしたら
相当な女…いや、男たらしだと思う。
可愛らしく口元に手を当て、暫く考えるそぶりを見せると
僕を通り越した先ーー
僕には向けたことのない、少しだけ熱っぽくて艶やかな瞳で入り口を見つめた。
「…んー、どうだろうね。
例えば匂いだったり…オーラ、みたいな…纏う空気とか。
…正直きっかけなんて、ほんの僅かな可能性でしかないと思う。
その人の存在全てに、気付いた時には惹かれてるんじゃないかな。」
ほんのり頬を赤く染めた氏原先生は、
言葉にするのはなんだか難しいねって照れ臭そうに笑った。
存在…全て。
そこにいるだけで
そこにある空気すらも、全て。
氏原先生のその言葉は、先生と、あいつを連想させるには十分すぎる理屈だった。
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