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もう離れられなくて#9
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とぼとぼ。
そんな効果音が似合うだろう。
家までの道のりに高い建物は無くて、
僕を直に襲ってくる冷たい風は絶えず吹き付ける。
僕の謝罪に奏楽さんは何も答えてくれない。
視界が霞む。
鼻の奥がツンと痛む。
朝家を出る時封を開けたカイロは、
ポケットの中で冷たく、硬くなっていた。
スマホを持っていない方の手をゆっくりポケットにしまう。
温もりを失ったそれを強く握りしめ、
手探りであの黒い塊を崩したりして気を紛らせた。
「…グスッ。」
でも、体のどこからか溢れる水分は抑えが効かない。
目からも、鼻からも
なんかあったかい水が落ちそうになる。
だって、疲れてるであろう奏楽さんが
せっかく休んでいたのに。
それを妨害しちゃうだなんて最低だろ。
『…ん、泣いてるのか?よしはる…。』
それまで何も言わなかった奏楽さんが放つ一言は、
優しく、何処か甘ったるい声だった。
「っぁ…、な、泣いてっません…。
鼻、詰まって…てっ。」
下手くそな言い訳。
自分でもそんなこと、わかってるけど
奏楽さんに一度迷惑をかけてしまった今日は、
もうそれ以上奏楽さんに僕という負担を押し付けることはしたくなかった。
なのにーー
『…あほ、嘘つくんじゃないよ。1人で抱えるな。』
あぁ、もう。本当に。
奏楽さんは、優しいです。
僕なんかのために、言うべき言葉じゃないです。
欲が出てしまいます。
もしかしたら本当に、少しだけ
…ほんの少しでも、僕のこと特別な目で見てくれてるんじゃないかって期待してしまいます。
「っ、僕は、迷惑…じゃない、ですか…?」
奏楽さんからの言葉、待ちきれなくて
自分からそんな浅ましいことをしてしまいます。
誘導尋問のように、ずるい問い掛けを。
『…悪いな、薬まだ抜けてなくてぼーっとしてた。
初めからそんなことは思ってないよ。…明日の話、決めようか。』
「え…薬?…た、体調悪いんですか?」
『いや。別にそういう訳じゃない。
…ま、いつか話すよ。』
奏楽さんはなんだかミステリアスだ。
僕には抱えるなと言うのに、
自分のそれは1人で抱えてる事とは違うの?
まだ、奏楽さんのこと全然わからないな、僕。
僕ばっかり、助けられてるな。
「ん、そっか…わかりました!」
僕にとって、薬というのは
例えば熱が出た時
例えば咳が止まらない時
例えば怪我や炎症の痛みを抑えたい時服用するためのもので、
でも奏楽さんにとっての薬というのは、
なんとなく僕の思うそれとは少し用途が違うような気がした。
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