アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
もう離れられなくて#12
-
翌日、昼13時。
ようやく幼馴染みから解放された僕は、
普段ほとんど乗った試しがない電車に揺られて待ち合わせの駅に向かっていた。
正直、人混みを避けて生きて来た僕にとって、
土曜の昼の電車はキツい。
余りにも濃い密度と、季節を疑う蒸し暑さ。
せめて外部の音をシャットアウトするためにと、
耳から伸びたイヤホンの音量を二つほど上げた。
体に響き渡る音楽。
特別な知識やこだわりは無いけれど、
それなりに流行りの歌は押さえている。
このアーティストが好きっていうのはあまりなくて、
テレビで聴いたり、ふと、調べてみたりと聴く曲はジャンルも国も様々だ。
ちょうど流れてきたのは、いつだったか深夜に見たアニメのエンディングテーマだった気がする。
何処か儚いのが印象的で、その人の代表曲とかこれよりもっと有名な曲なんて何も知らないのに、
その1曲だけをダウンロードした。
普段はなんとも思わずに聴いていたその曲だが、
改めて聞いてみればサビの始まり
“出会えた幻…”
なんて歌詞、まるで僕と奏楽さんだ。
…いや、奏楽さんに出会えた僕だ。
歌詞も、音色も、初めて聴いた時から何一つ変わっていないのに、
こうして自分の気持ちが稀に共鳴することがある。
共感を得る歌詞、とか言って人気が出る歌手も沢山いるが、こういう感覚なんだろう。
多分…だけど。
なんて、色んな歌を聴きふけっているうちに
気付けば待ち合わせの場所まであと一駅になっていた。
慌ててイヤホンを外し、新調したジーンズのポケットに押し込む。
突如猛烈な勢いで暴れ出した心臓を、
もう今さら押さえ込む術は知らない。
だって仕方ないじゃないか。
約1ヶ月ぶりに、いや、むしろ初めてだ。
Rickyじゃなく、奏楽さんに会えるのは。
連絡も取り合ったし、通話もしたけど、
顔を見て話すのは人生でたったの2度目。
電車を降り、改札をくぐった所で
奏楽さんとのメッセージ画面を開いた。
13時48分…。
少し早いけど、まぁ特に問題無いだろう。
“今、着きました!”
なんだか、久しぶりの感じだ。
緊張で手が震えて、期待と不安で呼吸するのが難しい。
気を抜いたらついニヤけてしまいそうで、
少しだけ下を向いた。
画面をちらっ、ちらって見てみる。
なんて不可解な行動だ。
自分でびっくり。
だけど今日は許して欲しい。
すると程なくして付いた既読の文字。
『早いなぁ。東口のロータリーで待ってて。』
その文字を見るや否や東口目掛けて走り出したら、
知らないおじさんにぶつかった。
当たり前だ、僕のバカ。
ごめんなさい、おじさん。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
28 / 95