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もう離れられなくて#15
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まるで全力でマラソンを走ったかのように、
いつまでたっても収まらない動悸に今僕はとても困っている。
右を見れば奏楽さん
左を見れば窓ガラスに映る奏楽さん
となると、岩のように山のように、前を見続けるしか
僕に与えられた選択肢はない。
ひじ掛けに体重を置いているせいで
奏楽さんは若干僕よりに傾いている。
それだとひじと肩が…。
どんなに前だけを見つめていても
ひじと肩が視界に入るんです。
「なぁ。」
「っはい!」
見事なお返事。
お手本レベル。
自分の声とは思えないハキハキとしたそれに
自ら心の中で拍手を送る。
「ジュースは。」
「え…あっ、あ、どうぞ!」
また失敗してしまった。
自分の気持ちを静める事に精一杯で、
奏楽さんに頼まれたお使いの品を渡すことすら忘れていたなんて。
とんでもないポンコツだ。
にしても奏楽さん、僕の持っている袋に気付いていただろうに
どうして早く言ってくれなかったの。
めちゃくちゃ恥ずかしいじゃないですか。
僕は今にも潰れそうな勢いで膝の間に挟んでいた袋の中身を取り出した。
ううん、なまら温かい。
最悪。
けれど、奏楽さんは僕の差し出したそれをなかなか受け取ろうとはしない。
「え…と、奏楽さん…?」
もしかしてこのパッケージを見ただけで
嫌い認定されてしまったのだろうか。
確かにこの色、一目見ただけで誰もが知っている名称が浮かび上がるだろう。
炭酸好きは皆一度は通る道だと思っていたのに…。
あ、それとも僕の体温でちょっとぬるまっちゃったのが伝わった…のかも!
そうだ、それだ間違いない。
だったら今すぐ買い直すので降ろしていただいて結構です!
…頭の中ではいくつもの思考が過るのに、
それを声として発信できない辺りはさすが僕。
せめてもう少しくらい社交的になりたいものだ。
ジュースを突き付けたまま静止している僕をちらりと見て、
奏楽さんは呆れたようにため息をついた。
…やっばい。
何か気に障ることをしてしまった。
そう思ったとき、頑なにそれを受け取らなかった奏楽さんが
ようやく口を開いた。
「お前俺が運転してるんだからキャップを外して渡すのが当然だろ。」
「え、いいんですか?」
そこですか?
今飲みたかったんですか?
てか僕開けちゃって汚くないですか?
潔癖とかじゃないですか?
大丈夫ですか?
「いいもなにも無いだろ。
ハンドル持ってるのにどうやってそれ開けるんだよ、歯で穴でも開けろって事か。」
「ち、違います開けます開けてお渡ししますすみません。」
思わず笑ってしまいそうになりながら、
それの蓋を開けて再度手渡す。
「ふんっ。コーラか……ま、センスは悪くないな。」
今日、奏楽さんの新たな一面を知った。
彼は格好良くて美しい、
そしてびっくりするくらい捻くれた王子様だ。
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