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もう離れられなくて#22
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ゆったりとした、バラードだった。
あまり覚えてないけど、文化祭で歌っていた奏楽さんとはガラッと雰囲気が違って
女性アーティストなのに、
それをものともせずに歌う姿は格好良いし
高音が本当に綺麗で、やっぱり鳥肌が立って。
上手く説明出来ないけど、歌い慣れてるってよりは
Ameじゃなくて、
奏楽さんの曲なんじゃないかって思うほどに聴いていて心地が良かった。
物語調の歌なのに、サビに出てくる歌詞は
深い暗闇から一筋の光を見つけたような
温かい言葉がたくさん詰まっている。
たまに裏声になって、
そこから地声に戻るときの変化が好きだ。
伸ばした音にゆっくりビブラートをかけて、
最後の1秒まで音を大切にするその声が好きだ。
消えていく声をいつまでも感じていたい。
小さくなっていく音楽。
耳に焼き付く奏楽さんの歌声。
ああ、僕もあなただけの、あなたを照らすための
そんなひとつの星になりたい。
「…はる。よしはる、おい。」
「っふぇあっ!あ、え…あ、終わった…。」
気付いたらもう、その歌は終わっていて
気付いたらもう、奏楽さんは隣で僕を見ていた。
「…なんで泣いてるんだよ。」
「……え、あ……あれ?」
何故かわからないけど、
僕の頬は涙で濡れていた。
…わからないなんて嘘だ。
奏楽さんの声が
奏楽さんの歌が
奏楽さんの全てが
僕の心全部を鷲掴みにした。
文化祭でも泣いてたなあって、
ふとそんな事を思い出す。
「…誰かの歌、聴いて…泣いたの、初めてなんです。」
「ふっ、そんなにかよ。」
「っ、はい…。」
そんなに、なんです。
奏楽さんが僕に与える影響って、
そんなに大きいんですよ。
「これのさ、歌詞好きなんだよ。」
「あー、あの…僕は1人だなんてもう言わせないって所…とかですか?」
「そうそう。…だからお前に歌って欲しくてな。覚えろよ?」
「っ?!……は、はい…頑張り、ます…。」
奏楽さんにとって、
いつか僕がそんな存在になれるなら。
そんな言葉、多分面と向かって言えるわけないから
僕の気持ちを歌に乗せて
奏楽さんに伝えられる日が来たらいいな。
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