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もう離れられなくて#29
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「冷めないうちに食べちゃいな。」
奏楽さんはそれだけ言うと、
僕を叩きまくって顔が崩れたペンギンさんをまた一から作り直す。
僕は麺が伸びないうちに、
汁を吸ってしまわないうちに、再び箸を進めた。
うん、やっぱり美味しいや。
今度こそ、お会計はしっかり割り勘にしてもらった。
なんだかんだでカラオケも、クーポン持ってるからとか
上手に言いくるめられて奢ってもらっちゃったし。
なんでそういう所までイケメンなのかなあ。
困りますよ、ほんと。
店を出た頃には、空はもうかなり暗くなっていた。
僕と奏楽さんが一緒に居られる時間も
だんだんと短くなっていく。
奏楽さんの車は、とうとう昼に待ち合わせをした駅に向かって走り出した。
「今日はありがとな。」
「いえ、こっこちらこそ…!」
街灯の並ぶ環状線を、行きとは違って安全運転でゆっくりと渡る。
対向車のライトが少し眩しくて、
どうしてか瞳には涙の膜が張った。
オレンジ色に染まる奏楽さんの横顔を、また見られる日は来るのかなって
少し不安で、目を離せなかった。
見惚れていた、ていうのとは違って、
なんていうんだろう。
この、僕しか知らない奏楽さんの姿を、
ずっとずっと、目に焼き付けていたかった。
この時間がいつまでも続いてくれたらいいのに。
明日なんて、来なくていいのに。
時間がたつのって、こんなに早いんだっけ。
しばらく静かな時間が続けば、
信号の先はもう、駅のロータリーが広がっている。
終わりの時間はもうすぐそこ。
カチカチと左を指すウインカーが
無機質な音を立てて、
まだかまだかと赤信号を催促しているようにさえ感じた。
そんなに急かすなよ。
離れなきゃいけないだろ、ばか。
「あ、そうだ。美晴。」
その時、奏楽さんは何か思い出したように
僕の頬に手を伸ばした。
「…?え。」
振り向いた瞬間
僕の顔のすぐ前に奏楽さんの顔。
まつ毛長いな、とか
鼻高いな、とか
きっと考えたと思う。
だけど全部どっかに飛んでった。
唇に、柔らかい感触。
タバコの匂いと
奏楽さんの匂い
僕を心を見透かしてしまう真っ暗な瞳は閉じていて、
だからきっと今の僕の間抜けな顔はバレてないから。
何も考えられない事、バレてないから。
「この間、出来なかったからな。」
「…〜〜〜っっ。」
青に変わった信号。
動きだす世界の中で、
僕だけが取り残されたみたいに
固まったまんま。
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