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もう離れられなくて#32
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夜7時台の電車には、土曜日だというのに
背広を着た大人たちがたくさん乗っている。
奏楽さんより格好いい人なんてこの世に存在するんだろうかって疑問に思う。
疲れた顔をしてつり革を握る人、
舟をこいで隣の人の肩にぶつかる人、
スマホから目を離さない人。
どこを見ても誰を見ても、奏楽さんの足の指先にも及ばない。
格好いいんだよ、すごいんだよ、僕の彼氏。
意味わからないくらい美人で、
ちょっと捻くれてて、
実はものすごく面白い。
良い所しかないでしょ?
って、顔も知らないこの人たちに自慢したくなっちゃう。
スマホにイヤホンを差し込んで、
最寄り駅まではカラオケで奏楽さんが歌っていた曲を探した。
結構マイナーな曲が多いみたいで、見つけるのにも一苦労。
暫く音楽アプリと戦って、やっと見つけたのは
僕が覚えなきゃいけないあの曲だ。
乗り過ごさない様、少しだけ音量を落として星の名前に触れる。
始まったイントロは確かに聴き覚えのあるそれなのに、
歌が始まるとびっくりするくらい音程が違って思わず笑ってしまった。
奏楽さん…流石に作曲しすぎでしょ、これは。
でも奏楽さんの作った曲の方も結構好きだったなあ、僕。
もう奏楽さんは覚えてないんだろうか。
世界に一つだけしかない
僕しか知らない奏楽さんが作ったメロディー。
サビに入れば、ところどころ聴き覚えのある音程なった。
あー、そう。これこれ。
僕からしたらめちゃくちゃ高音で苦しいけど、
奏楽さんは簡単に出せてしまう。
大人気歌手なだけあるなあと他人事のように感心して、
その彼が僕を選んでくれたという奇跡みたいな出来事にまた鼓動が早まる。
今日は心臓が忙しい。
奏楽さんが歌っていた曲を2曲、3曲と見つけていくうちに、
電車は僕の家の最寄までたどり着いた。
奏楽さんが選ぶ曲はどれも切ない雰囲気で、
奏楽さんばかりを見ていたせいで歌詞なんてまともに見ていなかったけれど、
亡き恋人を想うものや苦しい恋を歌うものが多かった。
そういうの、好きなのかな。
奏楽さん。
また、もっと、奏楽さんを知りたくなった。
家の扉を閉めて、玄関の電気もつけないで、
奏楽さんとのトーク画面を開く。
ちゃんと約束、守らなきゃね。
“家、着きました!今日はありがとうございました!”
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