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なんて素敵な#6
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奏楽さんに、会いたいと思ってしまった。
奏楽さんの声を、聞きたいと思ってしまった。
僕が初めて、奏楽さんに言われた形ではなく、
自分の意思で自分から電話をかけた。
数コールして繋がったそれ。
奏楽さんの声は、先ほど聴いたものとは違い、
いつも通りの気怠そうなものだ。
『…どうした。』
「あっ…あ、の……なんか、その…。」
うまく言葉が見つからない。
そもそも用もないのに電話なんて、
忙しい奏楽さんにとって迷惑だったんじゃないだろうか。
急に嫌な汗が背中を伝って、
心臓がドクドク鼓動を早めた。
奏楽さんは、僕の戸惑った声を急かすでもなく怒るでもなく
静かに次の言葉を待っている。
「き…聴きました、曲…。」
『あぁ、さっき言ってたな。ありがとう。』
「あ、はい……。」
終わってしまった。
マズい。
こんな、口下手の自分が嫌いだ。
拒否される事を怖がって、何も言えない自分が嫌いだ。
奏楽さんに何かを求めるのはいけない事のような気がして、次の一言が出て来てくれない。
そんな自分が、大嫌いだ。
『…はぁ。お前もしかしてそのためだけに電話して来たのか?』
スマホ越しの奏楽さんの声が、少し呆れたような口ぶりになった。
奏楽さんの声色ひとつで僕はこの上なく怯えてしまう。
「ち、違くて……っ。」
『じゃあどうしたんだ。』
「そ、れは………っ。」
それでもまだ、言葉は出ない。
強く噛んだ唇から、少しだけ鉄の味がした。
もしも、
もしも僕が
正直に言ったら奏楽さんを困らせなくて済むだろうか。
そんな事言ったら奏楽さんは呆れてしまうだろうか。
会いたいと言ったら奏楽さんを笑顔にできるだろうか。
そんな事言ったら奏楽さんは怒ってしまうだろうか。
期待と不安は紙一重だ。
何も言えないよ、こんなじゃ。
いつか、飽きられて、ポイされて、僕はまた1人に戻る。
奏楽さんの為に僕は何でもするけれど、
僕は奏楽さんを振り回すなんて無理だ。
奏楽さんは誰もが敬い、慕うアーティスト。
誰もを救い、楽しませられるアーティストなんだ。
曲を聴いてわかってしまって
僕はまた、奏楽さんとの格差に息苦しくなる。
『…あのなぁ美晴。お前が何考えてるか知らないけど
ーー俺はお前の彼氏だよ。何か言いたい事があるなら言え。』
「……っ。」
奏楽さんはまるで僕が考えてる事なんてお見通しだとでも言うように
クスリと笑ってそんな事を言う。
なんだよ、なんなんだよこの人は。
僕は、こんなに素晴らしいあなたに甘えてもいいんですか。
狡いあなたに甘えてしまいますよ。いいんですか。
許してください、僕の我が儘を…。
「……会いたい、です…。」
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