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なんて素敵な#7
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「会いたい…です。」
必死に絞り出した声は、思ったよりもはっきりと発音されてしまって
これじゃ聞き間違いも、聞き逃しもないな…なんて思って胸が苦しくなる。
例えば、何?聞こえないとか
聞き返されたりしたら、何でもないですって全部諦めて終わらせる事が出来たのに。
奏楽さんは素敵な歌を作る。
片や、僕の周りの誰もが知っているような注目を浴びる存在。
一方で僕は……
少し前までまともに学校にも行けなかった落ちこぼれ。
そんな奴が、どうして奏楽さんを振り回すような、
奏楽さんを僕の意思で行動させてしまうような事、してしまうのか。
一つの言葉を発するたびに、愛想だとか態度だとかを気にする以前に
僕が奏楽さんの時間をほんの少しでも使わせてしまうことに後悔する。
自分に価値があるか、なんて
考えなくてもすぐにわかる。
でも、そんな僕にも優しいのが奏楽さんなんだ。
飾り気がないメッセージのやり取り。
それは電話だろうが、直接かわす会話だろうが変わらない。
だけど奏楽さんが僕にくれる言葉一つ一つが
どこまでも僕を救ってくれて
どこまでも僕にぬくもりをくれる。
『少し遅くなるけどいいか?』
「………はい。…っ、ごめんなさい。」
『どうして謝るんだ。』
奏楽さんを僕みたいな人間が振り回してごめんなさい。
奏楽さんの時間を僕に使わせてしまってごめんなさい。
突然会いたいなんて、迷惑なことを言ってごめんなさい。
謝らなければいけない事なんてたくさんある。
そもそも出会ってしまったことだって、ほんの偶然であって
あの場所に行ったのは僕じゃない他の誰かかもしれなくて。
どうして謝るって聞かれても
理由が多すぎて自分でもわからなくなりそうで
ただ、その中で今、最も謝りたいのは
奏楽さんを支えたいはずの自分が
彼の楽曲を聴き込むにつれて嫉妬にも近いような感情を持ってしまったこと。
Rickyが歌詞の中で想っていた相手が
本当にこの世に存在するかすらわからないのに。
そんなどこかの誰かに対して抱くそれは
酷く醜く、曖昧で
汚れていて迷惑で
その”誰か”の事を考えている奏楽さんの声は綺麗で。
「…わがままで、ごめんなさい。」
嘘ではない、そんな漠然とした一言を添えて
短い通話時間にピリオドを打った。
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