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なんて素敵な#9
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ペンギンさんからの温もりと、奏楽さんが近くに居ると言う単純な緊張から来る熱が、僕の身体を必要以上に温める。
呼吸の音を感じられる距離とはいいつつも、きっと僕が思っている以上にその距離は離れている。
って、わかっているのに。
…僕の心臓の音、奏楽さんに聞こえてるんじゃないかってちょっと不安になる。
「…美晴から会いたいなんて言ってくるの珍しいな。」
無言の空間で、先にその空気を破ったのは奏楽さんの方だった。
どこへ向かうとも言われず、見知らぬ道を走りながら口を開く奏楽さんの視線は…もちろんだけど、前を向いたままだ。
「めっ…迷惑、でしたよね…。ごめんなさい…。」
すぐに謝ってしまう弱気な僕を、奏楽さんは慰めるでも、呆れるでもなく
ただ、ドリンクホルダーに置かれているペットボトルを取る。
「迷惑だと思うなら初めから断る。」
「あ、そ…そう、ですか…。」
片手では開け辛そうなコーラのペットボトルに気が付き、そっと手を伸ばした。
「開けますよ?」
「…ん。」
よかった。
迷惑だと思われてはいなかったみたいで、本当…よかった。
僕のわがままなのに、僕の自分勝手な感情を、そのまま奏楽さんに押し付けたようなものなのに
奏楽さんはそんな僕を受け入れてくれた…。
キャップを外し、少し汗をかいていたそれをハンカチで拭き取ってから奏楽さんに手渡すと
奏楽さんはちらりと横目に僕を見て、少しだけ驚いた顔をした。
「…ちょっと気が遣えるようになってきたな。」
「うぇ…?ほ、本当ですかっ?」
「言われたことをちゃんと出来る子は好きだよ。」
猛烈に、顔が熱くなる。
今度はあったかいなんて表現じゃ追いつかないくらいの勢い…。
奏楽さんに“好き”なんて単語を使われるのはレアすぎて今にも爆発しちゃいそうだ。
もちろん、その言葉の意味を考えてみれば明らかに恋愛感情からくるそれでは無いし、
何なら言い方を変えれば使えるシモベとでも表せそうなものだが、それでも僕は嬉しくてたまらなかった。
「よかった……ぼ、僕のわがままで奏楽さんに時間を取らせてしまったので…これくらいはできて当然、です…。」
「…そうか。」
「そ、そうです…っ。」
こく、こくと喉が上下に動く様をまじまじと眺めていれば、奏楽さんはちょっとむず痒そうにしてすぐに飲むのをやめてしまう。
何故だろうかと疑問に思ってさらにその横顔を覗き込めば、今度はさっきの驚いた顔とは違う、明らかにあきれ返ったような顔をして僕を見る。
「……見過ぎ。」
「ひぇあっ、ご…ごめんなさい…。」
「美味いも不味いもわからなくなるだろ。気を遣え。」
うう…その通りだ。
まだまだ、奏楽さんに“気の遣える子”認定されるには程遠いらしい。
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