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なんて素敵な#10
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じんわりと暖房に温められた車内で、程よく緊張も解れてきたせいか
僕はいつの間にかウトウトと舟をこぎだしていた。
「眠たいのか。」
「……ぃ、え…大丈夫です…!」
ふいに聞こえた奏楽さんの声にハッとしつつも
再び重たくなるまぶた。
早く奏楽さんに会いたくて、寒空の下で待ちぼうけしていたというのに
いざこうして隣に奏楽さんが居てくれるこの今、
眠気に負けそうになるだなんてどうかしている。
僕は、奏楽さんのシモベ…じゃなくて違くて、奏楽さんが運転中に不自由しないように気を遣える男にならなきゃいけないのに…!!
んんん、でも…
暖房と、いい香りのマジックはすさまじい…。
奏楽さんは、眠くなったりはしないのかな…?
「…着いたら起こすから、眠いなら寝てろ。」
「あ……、ごめ、なさぃ……。」
奏楽さんの声が、呆れたそれとは違って
どこか優しく、眠りを誘う柔らかなものだったから
その安心感も相まって、僕の意識はすぅっと薄れていった。
「―――きろ、美晴。おい、起きろ。」
「…んっ!?」
激しく頭部を揺さぶられ、寝起きの頭は急激に覚醒する。
ぐわんぐわんする…奏楽さん、遠慮っていう言葉を知ってほしい。
……いや、まあ嫌じゃないんだけど。
「着いたぞー。」
辺りを見渡すが、そこは目の前に柵のある行き止まり…で、
暗い上にまだ目が慣れていないからか、それ以外の景色はよく見えない。
「え、えと…ここは?」
奏楽さんは、特に何を説明してくれるでもなく
淡々とスマホを操作する。
暗い空間には似つかわしくない目を瞑りたくなるような眩い光が車内を照らし、反射的に細まった視界でこっそり画面を覗き込んだ。
……動画サイト?
それは、奏楽さんもこれまでに何曲もアップしている
世界的に有名な無料動画サイトのページだった。
Bluetoothで繋がれている奏楽さんのスマホは車のナビと連携していて
とある動画の再生ボタンを押せば、その曲は車に積み込まれたスピーカーから音を出す。
ポップ調でもなければ、バラードでもない
何とも言い難い変化のない曲。
歌もついていなければ、サビのように盛り上がるところもない
音楽知識がごく浅い僕にとっては、正直“つまらない”以外の感想が出てこない。
…が、そんなつまらない音楽を聴いていれば
ようやく視界も鮮明になっていくもので。
柵の向こう側を確認した途端、全身の肌が粟立つ感覚に襲われた。
「こ…こ、ここ……って……。」
膝くらいの高さの金属で出来た柵に貼られているのは
乱雑に書き殴られたような「立入禁止」の文字。
その先には街灯の一つも無く、けれど朧月に照らされるそれがその存在感をありありと見せつける。
「廃神社。ついでにこの曲、呪いの歌ってやつ。」
「ぃぁあああああぁぁああぁ!!?!」
奏楽さんの前…どころじゃない。
恐らくこんなに大きな声を出したのは人生で初めてだ。
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