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なんて素敵な#11
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奏楽さんは突然何をしだしたの?!
廃神社?呪いの歌?へっ…?
「…そんなに叫ぶな。寄ってきちゃうだろ。」
「何がですか??!!?」
「……知りたいか?」
奏楽さんは妖しく笑う。
真っ暗な闇の中で、それはそれは妖艶で美しかった事だろう。
…まあ、今の僕にはそれをうっとり眺めている余裕なんてありませんけど!!!
「は、早く…とにかく曲、それ止め……っ!!」
僕はとにかく全力で、奏楽さんのスマホを奪うと
起動していた動画アプリごと消去して、車内は再び無音の空間へと戻る。
停止ボタン押すとか、ミュートするとか
今考えればもっと早くて確実な方法は確かにあったのに
つい気が動転してそこまで頭が回らなかった。
そして、先ほどから僕の奇行を笑う奏楽さんのくつくつと息をこぼす音がすぐ隣から聞こえてきて
怒りと恥ずかしさでどうかなりそうだ。
「………いきなり、酷いです…。」
「どこに行きたいか、何をしたいのかも何も言わないお前が悪いんだろ。」
「そ、それは……そう、ですけど…。」
「けど?俺に口答えするのか?」
したくもなりますようう…。
夜空を取り込み、より深みを増した奏楽さんの瞳は
なんとも面白そうに細まり、ゆらりと小さく揺れる。
いつも大人で、本当に僕と年齢が5つしか違わないのか毎度毎度疑問を抱いていた中で
ああ、この人も
ちゃんと22歳なんだ。と
初めて納得がいくような、僕に向けられる意地悪な笑み。
それを見てしまえば、悔しいけれど
怒りよりも僕が奏楽さんを笑顔にする事が出来たと
嬉しさばかりが大きくなって
怒りたい気持ちはすっかりどこかへ消えていて。
惚れたら負けとはよく言うものだ。
全く持ってその通りなんだから。
「…怖いの、は…僕少し…苦手です……。」
「だろうな。」
「うっ。」
奏楽さんは、僕にぶんどられたスマホを
なぜか取り返そうとはせず、僕の手の中で操作する。
先ほどの動画アプリとは違う、少なくとも僕は今までに一度も見たことのないアイコンを奏楽さんの指が触って
サイトが開くと、そこには暗号や数字を当てはめられた音声データがいくつも保存されていた。
「…別に美晴の事を怖がらせるためだけにここに来たわけじゃない。」
スイスイと画面をスクロールしながらそうつぶやいた奏楽さんは
何度か指を止めては、そこに記された暗号を眺めて、そして。
「あった。…これ、覚えてるか?お前の高校で一番最初に歌った曲。」
歌詞だけでなく、一つ一つ重ねられる楽器の音すらも記憶しているほど
何度も聴いたその曲は
少女の鼻歌が終わると同時にバンドサウンドに移り変わる。
その奥では、ピアノの旋律が細かい粒を揃え、
繊細に裏メロディーを奏でていて。
「このピアノ俺が弾いてるんだけど…、
こっから見えるすぐ前の家の人がピアニストでさ、毎日教えてもらってた。」
いつの間にか高く上った月の光が
奏楽さんを儚く、美しく照らし出していた。
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