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なんて素敵な#12
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奏楽さんの視線の先にあるのは、
ぽつんと建つ一軒家。
そこをどうみても普通の造りなその家には
奏楽さんをレッスンするほどのスキルを持つピアニストが居るらしい。
奏楽さん…まさか作曲や歌だけじゃなく
ピアノまで弾けるなんて。
僕も幼少期に少しだけ習っていた事はあるけれど、
今はもう手の大きさも何もかも変わってしまったお陰で初心者同様。
奏楽さんに言えるだけの実力も兼ね備えていないのだから
とてもじゃないけどそこで話題を膨らめようとは思えない。
それよりも、だ。
奏楽さんは後方を指している。
確かにここから程近い場所ではあるが、
それならやっぱり廃神社の前なんかにくる必要はなかったんじゃないだろうか。
…もっとどこか別の車を停められる場所に連れて行ってくれればいいのに。
「なんでここ…。」
ぽつりと本音が出てしまう。
オカルトものの映画なんかを母親が借りて来たときには、
イヤホンの奥から聴こえる爆音で聴覚を遮り、
硬く目を瞑って視界をも遮ってなんとかやり過ごしている僕にとって
奏楽さんのサプライズ肝試しとでも言えるこの行動はそれはもう、
叫んでスマホを奪うくらいにはとてつもなく怖かったのだ。
「お前に知って欲しくてな。」
「……え?」
はじめは、よく意味がわからなかった。
というか、
多分僕の言いたかったニュアンスとは違って聞こえたらしい奏楽さんから飛び出したのは
……意味を恐らく理解しても、
それが本当に正解なのかと疑ってしまう言葉だ。
「俺の事を、少しずつ
教えてやってもいいと思えたんだよ。
…だからここへ連れて来た。」
僕の、捉え違いでなければ
今、奏楽さんは僕にとって嬉しいなんて一言じゃ足りないくらい
飽和し切った込み上げる感情のせいで胸が苦しくなるくらい
信じられないような事を言ってくれているんじゃないかって。
僕は頭があまり良くないから
真正面からストレートに言われないと正解を探しては不安になるけれど
奏楽さんから紡がれた言葉は
まるで、僕の事を特別だと
僕を少しは信用してくれていると
そう、言われているような気持ちになれた。
僕は人を信じることが苦手だ。
だから、この今だって
奏楽さんは僕の事を陰で笑って、利用価値も殆ど無いであろう僕を
どんな風に、酷く虐めて傷めて捨ててやろうかと考えているんじゃ無いかって、そう思っている。
人は裏切られる瞬間が一番苦痛だと思うから。
だから、僕は裏切られないために
そもそも期待なんかしない。
信じなければ、負の感情なんて抱かないで済むから。
もし本当にそうなった時にも、奏楽さんの事をほんの少しも責めなくて済むから。
それなのに、そんな事…言われたら。
「ま、美晴が面倒臭くなる事はよくわかったから
もうこの手の場所には連れて来ない。安心しろ。」
「や……約束ですから、ね…?」
「ああ、約束する。
さ、そろそろ行くぞ。…怖くない明るい店で晩ご飯でも食うか?」
「っ、はい!」
僕は奏楽さんを信じてみたいと
奏楽さんは僕をおもちゃにしているわけでは無いのかもしれないと
期待してしまいます。
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