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なんて素敵な#17
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「…そんなに美味いのか、コレ。」
「………不味かったらお店で出ないですよ。」
「…もぐっ。」
間接キスだ。またしてしまった。
実際にした事だってあるのに、僕にとっては同じフォークで同じ皿の物を食べると言う行為すら夢のようだ。
全く慣れない。離されない手のひらの熱すら、僕を深い海の底に溺れさす材料となる。
動揺から、つい否定的になってしまった僕の返事。一瞬、納得行かなそうな視線が僕をチクリと刺したが、すぐに目の前の赤い食べ物へと戻された。
気に障ってしまっただろうか
ふと不安が脳をよぎったが、特に気にしている様にも見えなかったので一安心だ。
「…ふうん。こんなもんか。」
「あ、れ…?辛くないですか?」
「辛いに決まってるだろ。お前俺の事味覚障害とでも思ってるのか。」
「ちっちが…。」
「美晴みたいに騒ぐほどじゃ………ッ?!」
はじめは、さも余裕そうな表情で咀嚼してみせた奏楽さん。
食べながら話すのは行儀が悪いけど、僕自身も奏楽さんの感想をいち早く聞きたかったのだから問題ない。
ただ、余裕の顔つきは徐々に消え、
大きな目を見開いて、眉間にじわじわと増えていくシワ。
そうなんです。そいつ、後から来るタイプです。
僕と全く同じ反応ですよ奏楽さん。
「なっ…おま、こんな地獄の食べ物食ってたのか?」
「残さず食べろって言ったじゃないですか…。」
「それとこれとは話が別…ってかお前こんなに辛いなら何で俺に食わせたんだよ。サイコパスか。」
食べさせたんじゃなくて、自分で食べてました。
思いっきり、負けず嫌い発揮してノリノリでお口に運んでましたよね??
…あーもう、本当なんだよこの人。
全然読めない。全然掴めない。
何を突っ込めばいいのかもわからないくらい面白くて、可愛すぎて。
誰かと一緒にいるのがこんなに楽しいだなんて、初めて知った。
真っ赤な口は空気に当たるだけでヒリヒリするのに、そんな事も気にならず溢れた笑い声に
奏楽さんのしんどそうな文句が乗っかる。
奏楽さんが勢いよく煽ったグラスは、少し前までたっぷり水が入っていた筈なのに
ものの数秒で空っぽだ。
それでも足りなかったのか、もう一つ隣に置かれているグラスを掴んだ白い手に、負けじと僕のそれを重ねる。
「……どういうつもりだ美晴。」
「僕も………からいです。」
「俺の水だぞ。」
「ジャイアンみたいなこと言っちゃダメです。
それ僕のです。」
「……美晴。」
「……奏楽さん。」
正直、僕も限界なんです。
コレばっかりは譲れませんよ。
奏楽さんだって辛さは十分わかってるでしょ。
今回ばかりは、僕は何にも悪くない。
譲れない戦いが、今始まるーー
なんて事はなく
僕たちの様子を伺っていた店員さんが新たに追加してくれたお水をたっぷりいただき、始まろうとしていた男同士の戦いは事なきを得た。
「ご馳走様でした…本当に、奢ってもらってすみません。あの…。」
「気にするな。たまには歳上の彼氏に甘えることも必要だからな。」
「あ、ぅ……。」
奏楽さんは、黒一色のシンプルなデザインでありながら高級感を漂わせる長財布を取り出すと
さっさと会計を済ませてしまった。
最近ではあまり見なくなった、厚紙のカードにスタンプを押す原始的なポイントカードまで作ってもらって。
「このカード、いっぱいになったらパスタ一つ無料らしいぞ。
これでもう一回あの地獄スパに挑むか。」
「いじわるスパですよ、奏楽さん。」
「あんなの、いじわるの域とっくに超えてるんだよ。」
車に戻るまでの数十秒
僕たちの会話が途絶える事はなかった。
無理をして話題を探すわけでもない、自然と出てくる尽きない話題。
カードがいっぱいになるまで、僕と何度もこのお店で食事をしてくれると言う事だろうか。
無料券を、ただ自分の食事のためだけでなく、僕と楽しむために使ってくれるんだろうか。
…なんだろう。本当に、今まで生きてきてよかった。
奏楽さんと過ごす時間は、心からそう思う事が出来るくらい
特別なものだ。
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