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なんて素敵な#19
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迎えた週末。
ほんの数日前に発表されたばかりだというのに、ライブハウスの前にはずらりと行列ができていた。
イヤホンを付け、Rickyの新曲を聴く事務服の女性や
チケットを握りしめた部活用Tシャツを着た男の子まで。
今日のために頑張って仕事や練習を早く終わらせたんだろう…そう思うと、やはり夢のような光景だ。
お金を払って時間を作って、Rickyを一目見ようとやってきたお客さん達の邪魔だけはしたくなくて
スタート時間ギリギリに、渡されたゲストパスを見せて会場に入った。
因みに、一応僕もチケットを取る事が出来ればと受付開始時間にスマホを構えて待機していたが、何度タップしても弾かれ続け、ようやく繋がった時には既に予定枚数終了の表示に変わっていた。
一体どれだけ人気なんだよ、奏楽さんは。
この人の歌声を聴くために、日本中が争うのだ。
大手サイトのサーバーですら抱えきれない大人気歌手を、僕はズルして拝むことが出来てしまうなんて…。
優越感に浸れるような楽観的な性格ではない。
むしろ僕1人を入れるためにチケットを購入できなかったファンの方が居るのなら、今すぐ土下座して謝りたいよ。
開始のベルが鳴ると同時に、観客はしんと静まり返る。
通常ではあり得ないような中規模のスタンド型ライブハウスに、少女の鼻歌が流れる──。
たった30分のミニワンマンだった。
MCも無く、Rickyはその歌声を集まった全ての人の耳に届かせようと
細い腕を、どこまでも、どこまでも前に伸ばして。
真っ暗な会場。スポットライトを浴びるのはただ1人ステージに立つRickyのみ。
そんな中、僕の勘違いでないのなら
一度だけ、Rickyと視線が交わった気がした。
“始まる魅惑のショーに心を躍らせ
今宵取り憑かれるのは誰”
既存の曲を数曲と、最後に歌った新曲で
Rickyがステージから去ったあとも、アナウンスが入るまで客席の歓声は止まらない。
拍手の鳴り止まないそこで、マナーモードに設定していたスマホが振動した。
『ちゃんと見えてた。』
「……ぁ、うッ…。」
今日を成功させるために、最後に会ったあの日から一度も連絡を取っていなかった人物からのメッセージ。
仕事を終わらせ、部活を抜けて応援しに来た人達も確かに頑張ったのだと思う。
だけど、この日の為に、食事も睡眠も満足に摂らず、ステージでは完璧な姿を観客に届けるRickyを、僕は知ってる。
…意味もわからず溢れる涙の理由は、知らない。
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