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明智君は勿論、女子生徒にもモテる。バレンタインなんか、毎年スゴイ。
うちの学校では、教職員が生徒からチョコを貰うの禁止って訳じゃないんだけど、それは職員室に持ち寄って、教職員みんなで分けるのが暗黙の了解だ。
明智君も女子生徒に貰う度に、ちゃんと説明してる。
「お返しはできねーけど、ありがとな。職員室の先生らみんなで食べるから」
って。
その話を聞いた女子は、みんなで分ける用と明智君にだけ渡す用と、わざわざ2つ準備したりもしてるけど、明智君はどっちも受け取って、どっちも職員室に渡してた。
「うわー、ハート型だよ」
「これ手作りだね」
そんな風にちょっと気まずげに笑いながら、みんなでチョコを眺めるのは、毎年の光景だ。
中にはデコペンで「明智先生、好きです。A子」なんてチョコに直接書かれてるものもある。
勿論、他の先生だって貰うのはゼロじゃない。オレもたまに、いかにも義理っぽいの貰うことある。
お返しできないのは決まりだし、義理でも本命でも同じだから、明智君がチョコ貰って困るのは分かる。オレも困るから、分かる。
けど、やっぱり毎年バレンタインはドキドキする。
ドキドキっていっても、いい意味でのドキドキじゃない。不安でたまんなくなって落ち着かない方のドキドキだ。
明智君が女子生徒のこと、好きになっちゃったらどうしよう。生徒の間は付き合うのムリでも、卒業したら分かんない。どうしよう、どうしようって、いつも思う。
幸い、明智君は今のとこフリーのままだけど、いっぱいの女の子に告白されるの見て、平気でいられる程強くなかった。
バレンタインの次に、不安になるのは卒業式だ。この日も明智君はいろんな女子生徒に呼び出され、告白されたり手紙を貰ったりしてる。
「メールアドレス教えてください」とか、言われててることもある。泣いてる女子の前で、困ったように笑ってる姿も見たことある。
そういうのを遠くから見る度、みんな明智君のこと好きなんだなって、しみじみ実感させられる。
明智君がそれにいい返事をすることは1度もなかったけど、今後もないとは限らない。
もしオレがホントの恋人なら、こんな時「ばーか、お前だけだぜ」なんて甘い言葉を貰えてたりするのかも知れない。不安にならないよう、色々気を付けてくれるのかも。
けど、オレはセフレで。
明智君が女の子に抱き着かれたり、手紙貰ったり、写真撮らせてあげたりするのを、咎める権利なんかなかった。
オレにできるのはせいぜい、ケーキを口実に誘う事くらいだ。
「明智先生、週末にケーキ、どうですか」
オレと明智君だけに通じる、2人だけの合言葉。明智君から誘うのが多いけど、オレから誘うこともある。
周りの先生方からは「ケーキお好きですねぇ」とか言われるけど、今のところ「私も一緒にケーキを……」なんて横から誘われることはない。
同年代だし若手だから、もしかしたら愚痴大会開いてるとか思われてるかも?
オレんちじゃなくて明智君ちに行ってばっかなのは、うちが職場に近過ぎるからだ。朝は便利だけど、こういう時はちょっと不便。誰が見てるかも分からない。
オレの誘いに明智君は顔を上げ、「ああ……」と一瞬間を空けた。
「今週末は無理なんで、金曜か、木曜なら。それか今日でもいいっスよ」
ニヤッと笑われて、平気なフリでこくりとうなずく。
「じゃあ、今日」
赤面しないよう、必死で我慢してるけど、じわじわ耳が熱くなってどうしようと思った。
週末にのんびりできないのは残念だけど、明智君にもプライベートあるし、用事があるなら仕方ない。
何の用事かは気になったけど、詮索する権利はないし、わざわざ訊こうとは思わなかった。しつこく訊いたら嫌われる気がして怖い。
恋人じゃなくてセフレだから、恋人ができなくてもおしまいになる可能性もある。
友達に会うのかも知れないし、親とか親戚と先約があるのかも。単に、気が乗らないって可能性もあるし、分かんない。
……もしかしたら、女の人とデートって可能性も皆無じゃない。
恋人じゃなくても会ったりはあるだろうし、付き合う前にデートしたっておかしくない。
いつかは終わる関係だって、分かってる。
ちゃんとわきまえてるつもりだし、覚悟もしてる。いつか「終わりにしよう」って言われたら、泣かずにさよなら言える自信、ある。
「ああ、明智先生。週末の件だけど……」
教頭先生が明智君に話しかけてるの聞いて、ドキッとしても、知らんぷりできる。
「ご両親は……」
「いえ、今回は自分だけで……」
そんな会話を漏れ聞いて、嫌な予感に震えても、顔に出さないよう努力する。
今日はケーキ。今日はケーキ。今日は、明智君ちでとびきりおいしいケーキを食べよう。そうだ、アイスコーヒー買いに行こう。
楽しい事だけ考えて、心の暗雲には気付かないフリをする。
勿論、明智君ちに行ったって、「週末、何?」とは訊けないし、訊かない。
それがセフレのわきまえで。
また一晩、気持ちよく楽しく過ごせれば、それだけで文句はなかった。
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