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4 (R15)
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「いきなり誘うの、珍しいじゃん」
夜、明智君のマンションを訪れると、そう言ってニヤリと笑われた。
「何かあった?」
見透かされたように訊かれて、「別に」って顔を背ける。じわじわ赤面してる自覚はあるから、もしかしたらモロバレかも知れない。
けど、例え何か気付かれたって、明智君は深く突っ込んで来ない。オレも、「不安になったから」なんて正直には言わない。
抱き合うのに理由はいらない。それがセフレだ。したくなったから誘ったんだってだけでイイ。
「キスして」
明智君の首に腕を回し、キスをねだる。
ふっと笑いつつ、それに応えてくれる明智君。明智君は優しい。同い年なのにオレより大人で、頭がよくて、頼りになる。女生徒たちにモテるの分かる。
最初はちゅっと軽いキス。唇を軽く開くと、明智君の肉厚の舌が挿し入れられ、オレの口中を軽くくすぐる。
「ん……」
舌を絡めながら小さくうめくと、背中に回されてた彼の手が、セーターのスソから入り込んだ。大きな手のひらで直に肌を撫でられて、くすぐったくて気持ちイイ。
キスがほどかれ、ぐいっと背中向きにされて、今度は胸を撫でられる。
女の子みたいな柔らかさのない、オレのぺったんこな胸を触って、一体何が楽しいんだろう? それとも、やっぱこれも練習?
「夏木……」
耳元でこそりと囁かれ、両手で両乳首をきゅうっと揉まれる。
「あっ、は……っ」
たまらず声を上げると、後ろから抱き締められた。うなじを舐められながら、更に乳首を攻められて、両脚がふらつく。
「ベッド来いよ」
明智君が色気の増した声で言った。
勿論そのために来たんだから、拒むつもりもない。快感と興奮にぼうっとしながらセーターを脱ぎ捨て、ベッドに上がる。
明智君も上半身裸になってて――見事な腹筋を見せられ、肉食獣みたいに覆い被さられて、そんだけで背筋がぞくぞくと震えた。
激しく腰を打ちつけられた時には、高い嬌声が上がった。
彼の動きに合わせ、シングルベッドがミシミシ軋み、オレの口から嬌声が漏れる。
頭の中が真っ白になるくらいの快感。閉じたまぶたの奥にびかびかと星がまたたいて、ただ気持ちよさに身体をゆだねる。
何も考えたくなかった。
この先のことも、教頭先生との話のことも、いつか終わりになる日のことも。今は何も考えず、ただ彼の熱さだけに溺れたい。
明智君も、オレのそういう気持ち分かってたみたい。
その日の行為は平日なのに激しくて、自分ちに帰るのが億劫なくらいヘトヘトになった。
「夏木先生、土曜日暇ですか?」
クラス担任を受け持つ1年生の生徒たちに、そんな風に訊かれたのは翌日のことだった。
「え、暇じゃないけど。何?」
ホントは暇だけど、素直にそう言うととんでもない面倒を背負うことにもなりかねないから、一応牽制として否定する。
この辺は、明智君から教えて貰った処世術だ。
お前、正直すぎるんだよ……って、ずっと以前に呆れられたの覚えてる。そういう明智君は、あんま付き合いのいい方じゃないんだけど、慣れ合わないとこも格好いい。
生徒たちも、オレの否定が建前なのは分かってるみたい。
「そんなこと言ってぇ。先生、暇でしょ? 打ち上げやるんで、来ませんか?」
決めつけたように言われて少々ショックだけど、顔に出すほど子供じゃない。
打ち上げって、何のことかと思ったら、クラスのお別れ会みたいな感じなんだって。進級するとクラス分けになるから、それで打ち上げやるみたい。
もしかしたら、親の転勤で転校する子がいるから、そのお別れ会も兼ねるのかも。
「場所は教室?」
だったら申請しないと。そう思って訊くと、みんなにドワッと笑われた。
「先生、学級会じゃないんですから!」
「小学生かよ」
「教室じゃ飲み食いできないでしょ?」
口々にツッコミを入れられ、さすがにじわじわ赤面する。
「えっ、飲食はできるよ」
辛うじて反論したけど、持ち込みでの飲食じゃ物足りないみたい。お店でやりたくて、もう場所も予約してるんだって。
場所は、生徒の父兄がオーナーを務めてるっていう、家族経営の居酒屋だ。繁華街だし、居酒屋って聞いてギョッとしたけど、親御さんがいるなら大丈夫なの、かも?
っていうか、むしろ担任のオレが一緒の方がいいのかも?
「分かってると思うけど、お酒とかは……」
少々焦りながら言ったけど、ちゃんとその辺は分かってるみたい。その親御さんからもクギをさされてるようで、ちょっとだけホッとした。
生徒自身、そこでバイトすることもあるみたいだ。
打ち上げの開始時刻は、土曜日の正午。
指定された居酒屋の前に30分くらい早めに行くと、もうすでに3人ほど集まってた。
作務衣になるのかな、真っ白な上下に帽子を被った男の人も2人いて、親御さんかなって挨拶する。
「あの、担任の夏木です。今日はお世話になります」
深々と頭を下げると、男の人2人も一緒に深々と挨拶してくれた。1人は生徒のお父さんで、もう1人はお兄さんみたい。
中にはお母さんもいるらしくて、成程家族経営なんだなぁと思った。
「ちょっと早かったですかね?」
「いえいえ、とんでもない」
オレの言葉に、お父さんの方がにこやかに手を振って、店内の方を覗いてる。「おーい、まだかー」なんて言ってるのが聞こえて、ちょっと慌てた。
「あ、あの、ゆっくりで大丈夫です」
残されたお兄さんの方に話しかけると、「ああ、はい」って爽やかにうなずかれた。
とても愛想笑いには見えない、快活な笑顔。さすが接客業っていうか、オレには真似できない感じで憧れる。
きっと明智君にも無理だろうな。そう思った時――。
「ああっ、あれ明智先生じゃん!?」
女子の甲高い声がして、ドキッと心臓が跳ね上がった。
「きゃーっ、女連れ!」
「きゃーっ、デート!?」
「うわ、美人」
女子の悲鳴に混じって、男子の感嘆が聞こえる。
チリッと胸が痛むのを感じながら、キョロキョロと視線を巡らすと、女子生徒達が大胆にも大きく手を振り始めた。
「明智センセーッ!」
彼女達の手を振る方向に、ドキドキしながら視線を向ける。
そこにはビシッとスーツを着こなした明智君と、上品な着物姿の女性がいて……こっちを険しい顔で睨んでた。
「きゃーっ、睨まれたーっ」
「センセー、ごめーん」
反省の色のない女生徒たちを、「迷惑だから」って慌てていさめる。
胸が痛い。手が震える。明智君の方、直視できない。怖い。彼らがまだそこにいるのか、立ち去ったかも確認できない。
「あの、中、まだ入る訳には……?」
真横にいた白い作務衣のお兄さんに訊くと、お兄さんはそれに応える代わりに、「大丈夫ですか?」ってオレの肩に手を置いた。
「先生、顔色悪いですよ」
生徒達に聞こえないようにか、こそりと耳元で告げられる。
顔色悪いのは、自分でも分かってた。けど、何にショックを受けたのかなんて、ホントのことは誰にも言えない。
生徒にも、生徒の父兄にも、同僚の先生方にも……明智君にも。絶対に言えない。相談もできない。
「お腹すいちゃって」
にへっとお兄さんに笑みを向けると、お兄さんは納得してなさそうではあったけど、それ以上踏み込んでは来なかった。
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