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明智君の好きな人って、誰だろう?
オレの知ってる人? 知らない人? 好きだけど、まだ付き合ってないのかな? オレもいつか他に好きな人、できるんだろうか?
明智君以上に好きになれる人、いるのかな?
ぼうっとしながら全身を洗い、湯を抜いて体の中も洗わせて貰った。オレと交代で明智君が中に入り、彼が出るのをラグに座ってぼうっと待つ。
さんざん泣いたせいで、悲しい気分がだいぶ浄化されたみたい。悲しいは悲しいし寂しさもあるけど、悲しさがなくなった分、空っぽになりつつあった。
空しいって、こういう感じなのかも?
明智君ちに置きっぱなしになってた服に着替え、ぼんやりと部屋の中を眺める。
今日で最後かもって思ったらちょっと名残惜しいような気がしたけど、イマイチ実感は湧かなかった。
こういうのって、もっと時間が経ってからじわじわ響くものかも知れない。
「話、できるか?」
ユニットバスから出て来た明智君が、濡れ髪を拭きながらオレの前に立った。黙ったままうなずくと、目の前にドカッと胡坐をかいて座られる。
「まず確認してーんだけど、オレ以外に今付き合ってるヤツとか、気になってるヤツとかいねーんだよな?」
それはホントにいなかったので、黙ったまま素直にうなずく。
「オレも、お前以外にいねぇ。この間の見合いはごり押しされたモノで、その場でハッキリお断りしたんだけど、『結論はそう急ぐな』とかいさめられて、伸び伸びになっちまった。ごめんな」
「そんな、明智君が謝ることないよ」
首を振ると、「謝りてーんだよ」って言われた。
「あの女にアドレスも電話番号も教えなかったけど、代わりにここまで押しかけられるとは思ってなかった。イヤな思いさせただろ。ごめん」
再び謝られ、真剣な顔で手を握られる。
イヤな思いなんてしてないから、ホントに謝る必要はない。けど、何もなかったことにもできなくて、じわっと涙が滲み出る。
あのままオレなんて捨て置いてくれればよかった。そしたらもっと傷付いてボロボロになって、明智君を憎んでいられたかも。嫌いになれてたかも。
けど、こんな風に真摯に謝られると、ダメだって思う。
好きだ。
「いつか他に恋人ができるまでって約束、無しにしてぇ」
明智君に目の前で言われて、こくりとうなずく。
うなずくしかない。もう、明智君の隣に誰かが並ぶのを見たくない。いつか来る日に怯えたくない。
「オレもセフレ、もうイヤだ」
お風呂に入る前に告げた言葉を、もっかい明智君に宣言する。
「オレ、明智君が……」
好きなんだ。最後の一言を言えなくて、ひぐっと情けない嗚咽が漏れる。「お前が好きなんだ」って、明智君から言われたのは、その時だった。
「セフレとか曖昧な関係はやめて、ちゃんと付き合いてぇ。いつか現れる誰かじゃなくて、お前と恋人になりてぇ。お前にちゃんと『好きだ』って言いてーんだ、夏木」
言われたセリフを頭で理解するより先に、ぎゅっと抱き締められ、腕の中に囚われる。
元々頭の回転、そう速い方じゃないけど、悲しみに浸りきってたせいか、余計に理解に時間がかかった。
「今……何て?」
好き、って今言った? 明智君がオレを?
「お前が好きだ」
抱き締められたまま再び告げられ、信じらんない気持ちで身じろぎをする。
明智君が好きな人って、オレ、なのか?
でもセフレはやめるって?
オレ、明智君を諦めなくていいんだろうか?
「オレ……」
それ以上言葉が浮かばなくて、思考があちこちに無意識に散らかる。考えがまとまんない。感情もまとまんない。喜んでいいのか、信じていいのか、それすら判断できなくて、ぐるぐると目が回る。
「オレも、キミが好きだ」
ごにょごにょ言って、明智君の背中に手を回す。ぎゅっと抱き締め合うと、明智君の心臓の音がいつになく速くドキドキしてて、なんだかちょっと嬉しくなった。
明智君も緊張してるみたい。
彼のドキドキは、オレよりも速い。
「オレの恋人になってくれ」
耳元で囁かれ、「なる」ってうなずく。安心したら頬が緩んで、嬉しくて涙がこぼれた。同時にぎゅううってお腹の音が響いて来て、明智君とぶはっと笑い合う。
「お前、色気ねーな」
明智君が笑って、オレにちゅっとキスをした。
「けど、そういうお前が好きなんだから、そのままでいてくれ」
軽く頭を撫でられ、再び唇を重ね合う。今度のキスはさっきより深くて長くて、いつも通りなのに照れ臭かった。
「じゃあメシ食ってから、ゆっくり恋人同士のセックスしよーぜ」
「せ……っ、うん……」
明け透けに誘われると、ますます照れ臭い。食事してからゆっくりっていうのが、妙に生々しくて恥ずかしい。
恋人同士のって、どんなんだろう?
今まで何度もここでそういうことして来たのに。今回はえっちそのものが目的じゃない感じがして、どういう顔していいのか分かんなかった。
「弁当、どっち食う?」
オレから離れた明智君が、さっきと同様にコンビニ弁当を2つ差し出す。
「オレ、どっちでも」
「それ答えになってねーだろ」
ふふっと笑う明智君は、いつもよりちょっと機嫌いい。
職員室や帰り道での機嫌の悪さも、エントランスで怒ってた感じも、もうとうに薄くなってて、側にいて安心する。
明智君が冷蔵庫からチューハイとビールを取り出して、チューハイの方をオレに持たせた。
「じゃあ、恋人になった記念に、乾杯」
「乾杯」
こつりと缶を触れ合せ、一緒にお酒をぐいっとあおる。
照れ臭いやりとり、照れ臭い会話。なんだか現実味がなくて、都合のいい夢じゃないかって気もする。
さっきまで絶望してたのに。こんな浮かれていいのかな?
ホントにオレでいいのかな?
朝目覚めて全部夢だったとしたら、すごく怖い。オレ、きっと立ち直れない。
「夢じゃない、よね?」
不安になって訊きながら、頬を自分でぎゅっと捻る。痛い。けど、痛くてもやっぱ現実味は薄くて頼りない。
「後でゆっくり、夢じゃねーって分からせてやるよ」
明智君にニヤッと笑われて、格好よさにドギマギする。
そんな甘いやり取りも、セフレ時代にはなかったもので――やっぱ現実味がなくて、夢じゃないといいなと思った。
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