アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
売れ残り
-
骨董商が再び市場に通り掛かったのは、三日後だった。
意外にも貧者のフルーツは売れており、数十個あった果物は残り五つになっている。
骨董商が不思議に思って警備で雇っている男に聞くと、貧者のフルーツを市場で売る事は夫のいない未亡人のみに許されている事だったらしい。この国では夫のいない未亡人の暮らしは悲惨に尽き、皆が同情して買っていくのだ。
一種の救済措置なのだろう。
それに……、彼女はウォカレラ持ちだ。
警備の男は、売り手の女の横に座っている少年を見て顔を歪めた。ウォカレラとは初めて聞く言葉だった骨董商が尋ねると、警備の男は渋い顔で語ることを嫌がった。
尚も聞くと、ウォカレラとは悪魔の子であり産まれた家に災いをもたらすと渋々教えてくれた。
災いを避ける為には、必ず母親と一緒に捨てるか殺さなければならない。ウォカレラである事は直ぐ分かるらしい。その瞳は穢らわしい金色に輝いており、決して凝視してはならない。
骨董商は「またか」とうんざりした。仕方がないとはいえ、この国の人間は迷信深すぎる。日常生活で気にする程度ならば良いが、決まりかけた商談を呪術師に従い破棄したりする。サッカーの試合で、両チームが雇った呪術師がベンチで呪い合戦していた時は笑いを堪えるのに難儀した。
医学知識がないこの国では、身体障害者への考えも同じものだ。とある結合双生児は信仰の対象となり、アルビノの子供は呪いの材料となり、先天的身体欠損者は悪魔に奪われたとされる。
ウォカレラとは、珍しい光彩を持って産まれる子供のようだ。恐らく土地の成分や遺伝子的な要素が関わって、この地域でしか産まれない子供なのだろう。金属的な光沢を不気味に思った者が悪魔の逸話を作り出し、結果的に迫害されるようになった。
大人になる前に死ねば良いんだが……。
小さく呟いた警備の男の言葉に、そこまで言うのかと流石の骨董商も嫌な気分になった。それだけ、この国の悪魔に対する恐怖は根深い。骨董商は僅かに少年に対する同情を感じながら、警備の男と共に立ち去った。
次の日、骨董商が再び市場を通り掛かると貧者のフルーツは売り切れていた。そして、女の横には少年が売れ残っていた。
良いではないか。
心の中で骨董商自身が呟いた。
この少年は迫害され続ける運命であり、大人になる前に死ねと願われるような立場だ。ここで、文明人である自分が慈悲で救ってやる事が何が悪いのか。どうせ、このままだと死んでしまうのだし、この野蛮な最貧国で何をしようとも罪に問われる事はないのだ、何を迷う必要がある?
売れ残った少年を見た瞬間、溢れた傲慢な考えは骨董商の心を満たした。
その夜、闇に紛れるようにして骨董商は少年を買った。
不思議な事に、骨董商が子供を買った時、人通りが全くなかった。まるで墨を流したような闇の中、存在するのは骨董商と女と少年のみだけのような空間で取引が行われる。
「ごめんなさい、ごめんなさい、憐れな人」
自らの子の手を引きながら立ち去る骨董商を見送りながら、女は泣いて謝り続けた。謝りながらも、女の顔には笑みが浮かんでいた。
ああ、助かった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
2 / 11