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飼い始め
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少年の手を握った時、その細さに骨董商は眉をひそめた。
別に憐れんだ訳ではなく、あまりにも細いので少年に歩く体力があるのか心配しただけだった。少年はいつ風呂に入ったのか、そもそも風呂に入った事があるのか疑問な程、垢と埃にまみれていた。そんな汚い少年を抱えて運ばないといけなくなる事は、出来ればごめんこうむりたかった。
だが、痩せぎすの少年は意外と体力があったようで、しっかりとした足取りで彼の後を歩いていた。
骨董商が借りている家までの道のりも、不思議なほど人に会わなかった。市場から家までは徒歩30分程で、夜中と言えども娼婦や警ら中の警察官が行き交っている筈だがそれすらいない。後ろめたい事をしている骨董商はそれを【幸運】と判断したが、間違いなく【異常】な状況である。
彼の家は、この国では高級住宅街の端にある小さな屋敷だ。勘違いしてもらいたくないが、彼は決して金持ちという訳ではない。死んだ父の遺産により骨董商という酔狂な商売を維持できるだけの資産があるが、それだけだ。日本に帰れば、東京の下町にある黒く古びた兎小屋のような骨董店が彼の家だった。
単純に、この国の防犯を考えたら此処に住むしかなく、日本円の恩恵によって懐はさほど痛まなかっただけだ。骨董商がこの商売で痛感したのは、安全は金で買うという事だった。日本のように、夜中でもコンビニへ小中学生が買い物に行ける国はまずない。
屋敷に帰った骨董商は少年から手を離した。少年を窺うと、ポカンと口を開いて室内を見ていた。骨董商からすると安っぽく西洋風に装飾された、いわゆる成金趣味な屋敷だが少年には大豪邸に見えているのだろう。この国では、比較的裕福な家庭でも、掘っ立て小屋に毛が生えたような家に住むのが大半だ。
骨董商は、玄関の泥落としマットの上に少年を立たせると「動くな」と命令した。少年が頷くのを確認した彼は、召使い用の風呂場に駆け足ぎみに向かう。30分程、少年と一緒にいた骨董商は、少年の匂いに限界だった。
風呂場の収用棚から、ありったけの粉石鹸と体を洗う用のブラシを取り出す。これらは先日辞めた召使いの物だが、勝手に使っても良いだろう。そもそも、呪い師の指示で仕事を突然辞めてしまうような者を気遣う義理はない。
必要な物を全て用意した骨董商が大判のタオルを片手に戻ると、少年は膝を抱えてマットの上に座っていた。
骨董商が戻った事に気が付くと、少年の顔がパアッと明るくなる。まるで犬のようだなと思いながら骨董商は、タオルでくるむように少年を抱き上げた。突然の事態に怯えたのか少年は固まるが、骨董商は気にせずに風呂場に向かった。
衣類を剥ぎ取り(下着は身に付けずに短パンしか穿いていなかった)、浴槽に入れた少年に頭からシャワーを掛ける。すると、みるみるうちにどす黒いお湯が浴槽に溜まり、お湯には塵やら垢やらが浮いていた。鳥肌をたてた骨董商は低い呻き声を漏らしながら浴槽の栓を抜き、何度も何度も熱いお湯を掛ける。恐らく初めてシャワーを浴びる少年は、目の中にお湯が入って叫び声を上げたが、骨董商はお湯が黒くなくなるまでシャワーを緩めない。
ある程度の汚れが落ちると、次に骨董商は「目を瞑れ」とだけ言って粉石鹸をぶちまけてブラシで擦り、少年はみるみるうちに全身が泡で覆われた。これまた少年の目に入ったのだろう、今度は涙を流しながらたまらず脱走しようとする少年を押さえ付けながら、容赦なくブラシに力を込めて洗い上げたのだった。
暫くの格闘の末、見事に分厚い垢や埃を洗い流された少年は、リビングのソファーの上でぐったりとしていた。産まれて初めて湯を浴び、長時間浸かっていた為、湯中りをしてしまったのだ。唯一の持ち物である短パンを骨董商に捨てられた少年は、産まれたままの姿でソファーの上に寝転び、秘所にタオルだけを掛けた状態だった。
少年は世界がグルグル回るのを感じ、それに加えて襲ってくる吐き気と頭痛に辟易していた。だが、逆上せた体が冷たい外気に触れ、ソファーの荒い綿の座面を背中に感じる感触は悪い物ではなかった。
今まで分厚い垢に覆われていた皮膚が、それを剥ぎ取られた事で息を引き返したのが分かる。汚かった皮膚は生来の褐色の肌に戻っている。清々しいとは、こんな気分なのだろうかと人心地ついていた所、大人の足音がした。
この屋敷の主が戻ってきたのだ。
屋敷の主は外国人だったが、少年が観たことのある白い外国人とは違っていた。肌は自分達のように褐色ではなく、白いが僅かに黄色がかっている。顔立ちは薄く、目は細く唇も薄い。髪の毛は自分達と同じような黒だが、どこか青みがかっている感じがした。
外国人に買われた自分がどうなるか分からない。ただ、餓えない程度に食べる事ができ、日に二、三発殴られる程度だったら良いなとだけ、少年は考えていた。
「気分はどうだ?」
目を瞑っていた少年の傍らに屋敷の主が立った。少年は答えようとするが、口を開いた途端に気分が悪くなり口を押さえた。屋敷の主はそんな少年を見て、その額に手を添えた。
この時、骨董商は風呂に入った直後だった。屋敷には自分しかいなかったので、所々水滴が残った体に一枚のバスタオルを巻いただけの姿である。
少年の目前に、屈んだ骨董商の湿り気を帯びた体が広がる。そのくっきりと浮かび上がる鎖骨や、レーズンのような色の二つの乳頭、盛り上がる筋肉の筋、カスタードのような黄色味が掛かった不思議な白い肌。石鹸の香りと男の体臭が混ざった香りが、少年の鼻先を擽った。
始めて見る外国人の男の裸体は、少年にとって強烈な光景だった。
青みがかっていると感じていた黒髪は、水気を帯びてさらに青々と艶めしく輝いており、そこから数滴の滴が少年の顔に落ちた。水滴の一つを舐めとりながら、少年は目を細める。
ああ、この男をお嫁さんにしたい……。
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