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「あの、俺の友達になって下さい!」
「…あぁ?」
うっ、ダメか?ここで諦めるか?
そう頭の隅で考えるけど、悩んで悩んで悩んだ結果の勇気なんだから、引くわけにはいかない。
「あの、いきなりで失礼ってか、不審者みたいだけど、俺あなたと友達になりたいです!ここでいつも誰かを待ってるの気になって気になって、もうこんなに気になるんならいっそ友達にでもなれば良いのかな?って、だからお願いします!」
一気に捲し立てる。ガヤガヤとうるさい街の中、花壇に腰掛けスマホを弄る男性に必死で頭を下げた。
「あんた、名前は?」
「あ、えっと、南条真広です!」
「ふーん、南条くん。」
「はい!」
「『渡涼』って聞いたことある?」
「わたり、りょう?」
男性から告げられた名前に記憶を総動員させる。
わたり、わたり…あ!!
「はい!確かモデルさんですよね!海外拠点にしてて、日本ではあんまり仕事しないとかなんとか…」
「ふーん。知ってんじゃん。」
「?」
そう言ってまたスマホに目を移す男性に首を傾げた。かけてるグラサンがキラッと光る。グラサンで画面見えにくくないのかな?茶色く短い髪が綺麗にセットされていて、まるでハリウッドスターみたいにカッコいい。
なんでそんなこと聞いたんだろう?渡涼のファンなのかな?あ、俺もファンですって言ったら共通の話題になって話聞いてくれて、友達になれないかな!?
「あの、俺も渡涼のファンなんです。」
「ほざけ。打算的な顔して何言ってやがる。」
「まぁファンなのは嘘だけど、知ってますから!」
「そこは嘘でもファンですって言えよ、バーカ。」
「じゃあファンです。」
「おっせぇ。『じゃあ』ってのも気に入らん。」
スマホから目を離さず言い切る男性。何が言いたいのかも分からないが、ここで諦めては男が廃る。
「もー!意味分かんないです!とにかく俺の友達になって下さい!」
「お前生粋のバカだろ。なんで『俺』がお前の友達になんなきゃなんねぇわけ?バカを友達にするほど友人に困ってねぇ。」
「う」
「…けど、お前のそれ。」
「はい?」
あ、こっち見た。光るグラサンに映る自分に一瞬気を取られているうちに、男性は立ち上がった。
うわ、手足長っ!背高い!
「このさらさらな髪は悪くねぇ。伸ばせよ。」
「え、髪?」
少し長めの前髪を指で掬われる。全体的に伸びてきたから切ろうかと思ってるんだけど…
「そ。この髪がもっと伸びたら、お前の言うオトモダチになってやるよ。」
「…はい!」
ニッと笑ったその人に、嬉しくなって握手を求める。「まだダチじゃねぇ」と払い除けられたけど心は浮き足立っていた。
「あの、貴方の名前は?それくらい教えて下さい。」
「…マジか」
呆れたような表情と声にキョトンとしていると、後ろから走ってくる足音が聞こえてきた。
「ゴメンよ涼!遅くなった!」
「いーよ。おかげで面白いバカ見つけたから。」
「え?」
グラサンを外しながら俺をニヤニヤと見つめる男性に、あたふたしてしまう。面白いバカって俺のことだよな?
「気付いた?」
「え、え…何に?」
「……すっげぇな、アンタ。」
プハッと笑い声を上げる男性に赤面してしまう。何に気づけと?笑われていることも言われていることも、意味が分からない。
「何がおかしい…」
「見て!渡涼よ!」
周りから悲鳴に近い声が上がる。
え、渡涼?
どこに?
「嘘、ラッキー!あの、握手して下さい!」
「え?」
若い女の子達が男性に手を差し出していることに驚く。
「ゴメンね。今プライベートだから、内緒。」
「「は、はい…!」」
手を握り返しながら立てた人差し指を口元に持っていく姿に呆気にとられる。
嘘だろ、だって…
「じゃーな。頑張って伸ばせよ、髪。南条くん?」
「えーー!?」
マネージャーと思わしき人物と歩きだす男性、その後ろ姿を見送りその場にしゃがみこんだ。
心臓がバクバク鳴ってる。
まさか、だって、そんな…!
あまりにも鮮烈な思い出。
これが、俺と涼さんとの出会いだった。
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