アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
出会い 1
-
初めて出会って目があってから3秒で、相手が好きか嫌いかが判断出来ると誰が言っていた。
それは本当の話なのかはわからないが、俺はきっと『そうかも』と疑わなかった。
君がずっと近くにいてくれるだけで、こんなにも嬉しくて…こんなにも胸が痛い。
あの日、あの場所にいなかったら絶対一生会わなかった。
こんな気持ちも、知らなかった。
こんな…人をいとおしいと思える気持ちが、俺にあったんだと気づかせてくれた君が本当に、本当に大好きだ。
だけど、この気持ちは蓋をしておこう。
君と、ずっと一緒にいられる為に。
この時は本気で、そう思っていた。
出会いは教室。
同じクラス。
出席順で君が俺の後ろの席だった。
高校入学で晴れの舞台、高校デビューとか周りは浮かれモードの同級生ばかりだったが、俺は体調不良でドン底だった。
咳は『ゴホゴホ』から『ゲホゲホ』と変わり、周りのが深く眉間にシワを刻んでいた。
(あー、ヤバイ…意識が跳びそう)
休みたかったが、親が許してくれなかった。
『入学式にいない子は、イジメられる!』と何もない根拠を喋りだし、体調不良の息子を高校の正門前に捨てた。
入学式までは朝飲んだ風邪薬が効いていたが、薬が切れかけているのか効かなくなったのか…とにかく今は、薬が効いてない。
頭はグワングワンしてくるし、身体はフラフラ揺れてガタガタ震えだす。
そして気づいたかもしれないが、さっきから濁音の効果音しか浮かんでこない。
頭が廻らないらしい。
今は早く家に帰って、ガーッと寝たい。
そう思っていた俺の後ろから、声が聞こえてきた。
「先生~、保健室に行きたいです」
そう言ったかと思ったら席を立ち、俺の腕を掴んだ。
何が起こったかがわからない。
こんなにも酷い状況の病人に、担任も同級生も無視を決め込んで誰も関わらないようにしていた。
だから俺も咳が出てうるさいが、消せない気配を消そうと努力をしていた最中の出来事だった。
「あぁ、良いぞ」
担任が素っ気なく言う。
俺は、何が良いのかわからない。
「んじゃ、行こう」
いや、何処に?
駄目だ、頭が廻らない。
だが力強く引っ張られて、抵抗出来ない身体は大人しく引っ張られてしまう。
「ほら、肩に腕を回せって」
言われたけど身体が思うように動かないから、声の主が俺の腕を動かした。
俺よりも背が低いのに、一生懸命に俺を支えて保健室に連れて行ってくれた。
ガラッと、容赦なくドアを開けた。
「先生!…あ、いない」
勢いよく開けたのは保健室のドアだが、保健の先生がいない。
「んーじゃあ、ベッドに寝とこ?」
声の主は、俺をベッドに連れていき寝かせた。
(ダルい、気持ち悪い…)
殆ど薄目状態で、周りも声の主の顔も見えてない俺は力無くベッドに倒れた。
「熱、あんのかな?靴、脱がすぞ~」
上靴を脱がされ、布団をかけられた。
思いのほか早く横になれた俺は安心した。
(ベッドに背中が、取れなくなったな)
そんなわけないが、身体が重く感覚はもう無い。
うつらうつら…と微睡んできた所で、額に冷たい物が置かれた。
「気持ち良いだろ?熱があるから冷やしておくな?」
その冷えた物は水で冷やしたタオルだった。
「…」
ボーッとして焦点が合ってない俺の顔を、冷たく濡れた違うタオルで拭いてくれる。
「…ん」
「もう、大丈夫だからな~」
不意に頭を撫でられる。
小さな子を安心させるように、その手は優しく撫でてくれた。
どうにか焦点を合わせようと努力する。
「って、悪い…」
声の主は慌てて手を引っ込めようとした。
力が出なかったはずの俺は、この時だけ咄嗟に手を動かし頭を撫でてくれていた手を握った。
その手は冷たくて、俺よりも小さく色白い綺麗な手だった。
「…も、ちょ…撫で…」
「ん?」
驚いている相手が聞き返す。
何とか言葉を簡潔に伝わるように、話した。
「…撫でて?」
「…うん」
声の主は撫でることを続けてくれた。
病気の時は寂しくて心細くなる。
その事をわかってくれたのか、優しく撫でてくれた。
高校生にもなって甘えて気持ち悪いと言われないかとビクビクしたが、相手は何も言わずに撫で続けている。
「…」
安心した俺は、ようやく眼に神経を持っていき相手を見ようと焦点を合わせにかかった。
いつもなら見える距離なのに、やはり調子が悪いらしく相手が遠くて、なかなか焦点が合わない。
「…遠…」
「ん?何?」
俺のか細い声に反応してくれて、相手は顔を近づけてくれた。
近づけてくれたお陰で、見えた。
優しい目で俺を見ていた。
3秒。
見つめ合う。
この一瞬で、恋をしてしまった。
フワフワッとした髪にクリッとした大きな瞳、肌が白いので唇がピンクなのが目に引く。
女子ではないのは、わかっている。
だが、気にもしない。
人生初の、一目惚れ。
「…き、だ」
「ん?」
「好きだ」
ようやく言えた言葉に、相手は手を止めた。
そして数秒間無言だったが、勢いよくブハッと吹いて笑われた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
1 / 11