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#3 ジャージ
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「来週の今日は何の日でしょう。」
真向いの席から熱い視線を浴びているのが分かる。一瞬だけ目をやると西田が頬杖をつきながら
こちらを見てきていた。
亨はすぐさま逸らすと然程興味のない手元の雑誌に目線を落とした。何の変哲のない保健室で過ごす昼休み。
「ねえ、亨。聞いてる?」
答えは分かっていたが口を開くのが
億劫で無言のままでいた。
「ねえ、ってば!!」
「お前の誕生日だろ。」
ねえとしつこい西田が鬱陶しくて強く言い放った。答えたら答えたで鬱陶しさが増すことには変わりないが言わざる負えない。
案の定、西田は嬉しそうに「ピンポーン」というと眺めていた雑誌を取り上げてきた。
そして、亨の右手を手に取り頬に押し当ててはこすりつけてきた。
「とおる。24日空けといてね?プレゼント期待してるから。」
西田の得意な猫なで声と上目遣いで強請ってくるのを見て可愛いなど微塵も思わない。寧ろいい年こいて何やってんだ。
「面倒くさい。」
「またまたー。ブランドのバックなり、少しは年上に尽くしなさい。」
「プレゼントとか無理。体でならいくらでも尽くしてやるけど。」
「亨のスケベ。まあそれでもいいけどね。亨といれるだけで十分。」
西田は右手を放して身を乗り出すと頭を撫でててきた。するとドアがノックする音が聞こえる。
西田は「もう、誰よ。」と不満気に呟いては文句を言いながら扉を開けた。
扉を開けるとそこに立っていたのはあの男だった。亨は一瞬だけ男を見ると机上にあった取り上げられた雑誌を再び読み始める。
まさかこんな場面で会うとは予想していなかった。
「あら、葵君。どうしたの?」
「あの・・・指を切ってしまって・・・。」
「中入って。今、絆創膏持ってくるわね。」
西田は先程の甘えた態度が嘘なくらい優しい保健室の先生を演じている。自分といる時と他の人がいる時では態度が違うことは日常茶飯事なので驚きはしない。
男は中に入ったものの俯きがちで、落ち着きがない様子だった。
西田は棚から救急箱を取り出し絆創膏を探し始める。
「おかしいわ。ないわね。」
西田が救急箱の中を懸命に探しているその隣
で亨は机上に放り出されている絆創膏の箱を見つける。
「ここにあるけど。」
そう言って箱に手を伸ばし、西田へと渡した。
男の方に目線を向けると、男はハッとした表情で
こちらを見る。何か言いたげにしていたが、西田に絆創膏を渡されると直ぐに俯いた。
「葵君、その傷どうしたの?」
「・・ちょっと、その・・・。」
男は絆創膏を怪我した右手の人差し指に巻くと
返答に困っている様子で口籠った。
「さ、作業中に自分で切っちゃったんです。」
「そう、ちゃんと気を付けるのよ。」
「はい、すみません。」
男は一礼する。西田が「いいのよ。謝らなくて。」と言うと、保険室内が静かになった。
静かな部屋だからか男の「あの。」と言う声がやけに響いて聞こえた。
雑誌から顔を上げると男はこちらを向いて明らかに自分に話しかけてきている雰囲気だった。
「あの、この前は有難うございました。
ジャージをお返ししたいのですが。今持ってなくて・・・。」
「ああ。今度でいいよ。」
斜め向かいに座ってこちらと男を交互に見ている
西田の視線が気になって仕方がなかった。
「でも、体育の授業とかありますし・・・。
此処で待っててもらえますか?すぐ取って来ますので。」
男はそう言い残すと焦ったように扉を開けては駆け足で出て行った。
同時にニコニコしていた西田の表情が少し歪んだ。
「意外、亨とあの子が仲良かったなんて。全然
タイプ違うじゃない?」
亨自身も驚いている。西田が男を常連のように
受け入れていたことに。だけどこの前の姿を見たら男のような大人しいタイプが保健室通いでも可笑しくはない。
「別に仲良くないし。単にジャージ貸してただけ。」
「でも亨が人に物貸すなんてありえない。私には冷たいくせに。」
西田は自分で可愛いと思ってやっているのか頬を膨らませていた。軽い嫉妬というやつだろう。
正直こっちはこっちで面倒だった。
「あいつさ、ここよくくんの?」
少し間を開けてから西田に問いただす。
西田は席を立ちあがると室内をうろついた。
「そうね。あの子よく怪我して来るのよ。
多分いじめられてるんだろうけど。本人も言わないし。」
「なんとかしてやんねーの?」
「そうゆうのは保健室の先生の仕事じゃないの。他の教師に任せておけばいいのよ。」
なんて無責任な言い草だ。と言いたいところだったが自分も男が虐められている姿をみたとき見て見ぬふりをした加害者には間違いない。西田と同罪だ。
「ひでぇ。せめてさっきの絆創膏くらい巻いてやればよかったのに。」
そう投げ捨てたように言うとハイヒールの音がこちらへ近づいてきては強烈と言うほどの甘い香りと共に背後から頬にキスされる。
「亨以外の人に触れたくないの。それに葵君、
露骨に人に触られるの嫌がるのよ。」
「ふーん。」
亨は頷くと椅子から立ち上がる。男のことなど待っていられなかった。仲良いわけでもないし律儀に待つ義理などない。物さえ返ってきたらきっともう関わりもしないであろう。
「ジャージ受け取っといて。」
「なんでよ。自分で受け取りなさいよ。」
「俺、待つの嫌なの知ってんだろ?じゃあ。」
西田が呼び止める声を無視して保健室を出て行った。
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