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やらかした。
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バイト帰り。人もまばらな夜の電車で、俺は少し目を瞑ろうと思っただけだった。なんせ連日の学業とバイトに追われ疲れていたのだ、どうせ終点まで乗るんだし、人もまあ、そんなにいないし、すんません、と心の中で謝りながら、足を広げて完全に寝る体勢を取った。まさかそんな気の緩みがあんな事態を引き起こすなんて誰も思わないだろう。
もしも時間を戻せるなら、俺はこの、今まさに脳内で馬鹿みたいに足ダダっ広げてヨダレ垂らしたアホ面で寝てる俺自身に忠告する。お前の人生変わっちまうぞ、って。お前が呑気にイビキかいてる間に、ほら、お前のなんとか一生懸命やってた人生めちゃくちゃにする竜巻が、足音立てて近付いてきてるだろって。
お前の心臓ぐちゃぐちゃにされたくなけりゃ今すぐ起きろ。
……なんて忠告、聞こえるわけもない。だって脳内の俺はとどのつまり回想の中の俺で、こんなふうに愚痴垂れてる俺は、珍しく現実逃避なんかしちゃってるわけだから。
─────………点──……終点───………
「んぇ」
ようやっと目を覚ましたとき、俺はもう目的の駅に着いていた。遅いわアホ、なんて悪態吐いてみてもやっぱり聞こえるわけがない。聞こえるわけがないくせに、こいつは次の瞬間慌てふためくはずだ。
「あの、大丈夫ですか…?」
いつの間にか隣にいた“オンナノコ”によって。
「………!?っえ、悪いおれ、よっかかってた!?」
「ぇ、あ、ハイ、声はかけたんですけど、あの」
「ごめん!!ほんとごめんなさい!!あれ、てかもう終点!?」
「あの、」
「やっべぇさっさと帰んねーとっ…あ、ごめんねほんと、これ、お詫び!受け取って、んじゃ!」
「えっ」
愚かにも俺がオンナノコに渡したのは、みんな大好きいちごミルクキャンディ。たしかにこのオンナノコはいちごミルクみたいな色合いだったかもしれない。お詫びの品を渡す誠意も評価するべきかもしれない。
けどさ、俺。後悔しても知らねーよ?
お前は近々、このとき疲労にかまけて寝ようとしたこと。人がいないからって気緩めすぎたこと。そのせいでたまたま近くに座っていたオンナノコの肩にもたれかかって、お詫びとか言ってポケットの中であったまったいちごミルクキャンディを渡したこと。全部に対して、こう思うよ。
「やらかした」って。
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