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「だって、…そんなの…」
辛すぎる。
好き同士で付き合っていた相手が、突然自分のことを忘れてしまうなんて。
「っぅ…」
溢れそうだった涙はついに溢れた。
その涙を、藍野先輩の指先が掬う。
何で俺が泣いてるんだろう。
「…っ先輩は泣かないんですか?」
見上げた先輩は今にも泣きそうな顔をしている。
泣きそうなのに、それでも先輩は笑顔を作る。
「泣いたって、何も変わらないから」
それは、もう十分泣いたということ?
「それにね、」
先輩の手のひらが俺の頬を包み込むように触れた。
「菱沼くんのおかげで、吹っ切れそうなんだ」
「っ…」
「ずっと、本当に辛かった。思い出してくれないし、古瀬に惹かれてるのが、見てて分かったから」
先輩は目を伏せた。
「どうしてだって、菫玲のこと責め立てたかった。いっそ、俺たちは付き合ってるって言ってしまいたかった」
恋人が、別の人を好きになっていく様子を、近くで見ているのは辛かっただろうな。
入学してから、何度も見た先輩の悲しそうに笑った顔。
辛い気持ちを押し込めて、無理やり笑顔を作っていたに違いない。
「でも、菱沼くんに出会った。少しずつだけど、自分の中で整理できていったんだ」
そう言って笑った先輩の、本当の笑顔を見れた気がした。
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