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「ごめんね?かいり、くん?後輩、なんだよね?」
「っ…菱沼灰凌です。灰色の灰に凌ぐって書いて灰凌って言います」
「灰凌くん…良い名前だね」
「っ、ごめんなさい、今日はこれで」
「あ、待って。灰凌くんが、俺と一緒に事故に遭ったんだよね?」
「…そうです」
「君が無事で良かった。お互い怪我しちゃってるけど」
「…先輩が俺のこと咄嗟に守ってくれたのでこれだけで済みました。ありがとうございます…」
直澄先輩は笑った。
俺はすぐに病室を後にした。
「灰凌…」
「…いつまでのことは覚えてるの?」
「一年生の、夏…」
ということは、
「今の直澄先輩は、菫玲先輩のことが好きで、付き合ってると思ってるのかな…」
「…分からない。聞けてない…」
「そうだよね。聞けないよね…」
涙が滲む。
「俺、どうすればいいの…」
まさか、こんなことになるとは思ってなかった。
医師の話によると、一時的なものだろうとのこと。
今は、事故のショックで記憶がないのだと。
時間が経てば戻る可能性があると。
でも、一週間経っても、直澄先輩が記憶を取り戻すことはなくて。
直澄先輩は、菫玲先輩が記憶を無くした時、取り戻させる努力が出来なかったと言っていた。
その時の心境が今なら分かる。
「また来てくれたの?ありがとう。肩の調子はどう?」
他人みたいな態度で接されているのに、
「まだ動かせないです」
「そっかぁ。お互い大変だね」
「そうですね…」
自分たちのことを話せる訳がなかった。
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