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ウォカレラ
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その事件が起こったのは、雨期の頃だった。
その日の骨董商は窓から雨を眺めていた。滝のような凄まじい勢いの雨の向こうから、雨期を祝う祭りの歓声が響いてくる。
骨董商は少年の熱意を避けきれず、また自慰をしてしまった。少年の「見本を見せて欲しい」という説得が功を成したのだ。
ソファーに座り足を開いた骨董商。その足の間に座った美少年に、己の逸物を見せ付けるように擦り上げるという異様な光景だった。少年は骨董商の姿を噛り付く様に見つめており、時々骨董商が押し退けないと、少年の鼻先が逸物に触れそうだった。
暗い寝室に二種類の荒い息が響き、時おり骨董商の「こらっ」「離れろ」という制止の声がか細く響く。熟れた雰囲気に酔ったのか、少年の萌芽は下履きを押し上げていた。少年の鼻先で射精した骨董商は、何時もと違う強い快感に情けない声を漏らしてしまった。そんな骨董商を見上げる少年は、満足そうな笑みを浮かべていた。
その時の事を思い出すと、今でも快楽の残滓が背筋を撫でていく。骨董商は頭を振って残滓を振り払うと、酒を口の中に流し込んだ。
暫く窓から外を見ていると、雨の中を歩く少年が見えた。
少年の成長は止まっていない。更に大きくなった少年は、既に少年という名称を使って良いのか迷う段階になっていた。実際の年齢が16歳というから、今までが小さすぎたのだ。
カッパを着ている少年は、何か作業をおこなっていたのだろう。大きなバケツとスコップを持っており、どちらも土に汚れていた。少年を何気なしに見下ろすと、少年の瞳が赤色と金色に煌々と輝いているのが見えた。
次の日、骨董商が住む高級住宅街に警察がやって来た。この住宅街で働くメイドが行方不明になったらしい。
悲しい事だが、この国ではよくある事だった。このような事件で行方不明者が見付かることはまずない。少年とメイドは知り合いだったらしく、警察の聴取に少年は冷静に答えていた。骨董商は、少年に「メイドが見付かれば良いな」と言った。それを聞いた少年は、骨董商に同意しながらニッコリと笑っていた。
その日の深夜、少年は骨董商に告げずに屋敷を抜け出した。それは四日間続いた。
少年が外出を繰り返すようになって四日目の深夜。骨董商の屋敷に強盗が入った。手慣れた様子で玄関の鍵を壊した強盗達は、骨董商の寝室に忍び込み眠っていた彼を荒く縛り上げた。
そのままリビングに引きずられた骨董商はソファーに座らされ、十人の強盗に囲まれる。強盗達は怒り狂い、口から唾を飛ばして怒鳴りながら詰めよって来た。強盗達は口々に少年の居場所を骨董商から聞き出そうとしていた。
その日も少年は外出しており、当然ながら骨董商はその事を知らない。正直に答えるものの、怒り狂った強盗達に通じる訳もない。ついには居場所を吐かせる為に殴打され、体の骨が折れて痛みに叫び声を上げた。
朦朧とした意識に歪む視界。そこに、金属的な輝きを持つ瞳が浮かび上がった。
いつの間にか、屋敷の中に少年がいた。
「ウォカレラァァァァー」
少年の瞳を見た強盗達は、まるで悪魔を見たかのように恐れ戦いた。恐怖にかられた強盗達は、銃を乱射しながら口々に呪いを口にする。普通ならば、16歳の少年の体は銃弾により小間切れになるだろう。だが、少年の動きはジャガーのようだった。
体の柔軟さと素早さを生かし闇の中を流れるように動き、銃弾をスルスルと避ける。家具に潜りこみながら少年が何かを投擲した瞬間、強盗の一人の喉に黒いナイフが突き刺さっていた。
ナイフが刺さった瞬間、その強盗は苦しむ様子もなく死んだ。まるで何かに魂を吸われたような異様な死に方だった。
それから少年の一方的な虐殺だった。恐慌状態の大人達を翻弄し、一人ずつ時には二人同時に命を刈っていく。最後の一人が骨董商を人質にしようとしたが、少年の瞳を見ると体が硬直して動けなくなった。強盗は信じられないと骨董商を瞳だけで見つめ、次に侮蔑の色を浮かべて何かを口にしようとした。強盗が何を言おうとしたのか分からない。少年のナイフが強盗に刺さり、絶命したからだ。
強盗を殲滅した少年は骨董商に駆け寄ると、彼を戒めていた縄を解いた。瞳に涙を溜めて骨董商に安否を尋ねる少年であったが、骨董商はそれに答える事は出来なかった。
何故ならば気が付いたからだ。
少年がメイドを殺した事。
ウォカレラが迷信ではない事。
目の前の少年の瞳は、メイドがいなくなった日のように赤と金に輝いていた。
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