アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
架空線2
-
テーブルに転がる電子煙草を口に咥える。
しみついた癖でいまだに灰皿を探してしまい、俺は苦笑い混じりにそっぽを向いて細く息を吐く。
先日また購入したらしい、俺にはよく分からないカタカナ文字が並ぶ啓発本だかビジネス本かも分からない本に落としていた視線を、煙草を吸う俺へと向けているのが目の端に写り込んだ。
なんだ?
いや。何も。
ふいに思い出した。若かりし頃は、熱の籠る視線が、切り替わるスイッチだったな と。
向きを変え、もう一度努めて優しい声音で問った。
その…なんだ。北山、の話なんだが…次はマレーシアだそうだ。今回は三年らしい。戻れば晴れて本社勤務だそうだが。壮行会、行けるか?
指をしおり代わりに挟んだ本をこちらに向け、僅かに上下させた。
北山とは同期入社で二年ほど同じ部署に在籍していた。その後同期生は各支社に散らばり、ヤツは本社を離れ支社を飛び回っていたようだった。
初めての海外赴任前にした壮行会で、北山が会社の親族であることを知り、一つ処に長居しない事にようやく合点した。
北山は、俺たちがパートナーであることを社内で唯一知っている男だ。呑みの席で事も無げに言い当て、自分が経営者サイドに立つ時は社内制度も変えるからと真顔で約束までしてくれた男でもある。
北山がその事を覚えているかはわからないが、そんな訳で俺たちは北山が出世することを期待していた。
そうだなぁ。調整するか。
じゃあ…俺も、行く。
頷きながら彼の視線は本へと戻っていった。
厚い本はまだ終わりそうもない。
簡単に切り替わるスイッチだったはずなのに、と誤魔化すように煙草を深く吸う。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
2 / 21