アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
見目の悪いとても珍しい生物になったようで気分が悪いが、珍獣にはシンを与えとけば途端に上機嫌になります。
-
「おーし、お前ら席着け〜一大ニュースだぞー」
一足先に教室に入っていった担任の声が聞こえる。
まるで昭和の漫画のような、テンプレートなセリフだ。
担任からみれば話の切り口にしやすいセリフなのだろうとは思う。
だが、これから教室の中に入っていく身としては、一大ニュースと呼ばれるほどの者じゃないと今すぐ訂正したくなるが。
そんな微妙な気分で待機していた俺だが、教室の中の水を打ったかのような沈黙に気づいてからは、さらに憂鬱を感じるようになった。
これ、歓迎されてないどころか、バリバリに警戒されてるだろ・・・。
教室の中からはピリリとした空気が漂っている。
「んじゃあ、入って来い」
空気読まない担任から声がかかったため、渋々教室のドアをくぐる。
心境はさながら、珍しくも気味の悪い見目をした珍獣だ。
「じゃあ、自己紹介な」
居心地の悪い視線に晒されながら、担任の言葉に黙って頷く。
「・・・夏木千世。親の都合で転入することになった。よろしく頼む」
そういって頭を下げるも、目の前の総勢40人の男子生徒からはうんともすんとも反応がない。
値踏みをするような、懐疑的な視線を向けられるばかりだ。
シンとの出会いで上向いていた機嫌が急落下していくのを、まるで他人事のように感じる。
だが、まあいい。
そちらがその気なら、俺も家訓の通りに動くだけだ。
我が家の家訓その一、
『性根の悪い金持ちに常識を説いたところでどうにもならないからほっとけ』だ。
「・・・ということだ。
お前ら、仲良くしろとは言わんが、問題は起こしてくれるなよ。
んで、こいつは今日は挨拶のみで引き上げる。週明けから顔出すから、クラス委員は生徒会に申請出して机と椅子もらってこい。んじゃ、お前は帰って良いぞ」
「はい」
俺は、担任の言葉に浅く頷いて、さっさと教室を後にした。
まったく、胸糞悪い空気だった。
あんなとこに日がな一日中閉じ込められる生活がしばらく続くと思うと、果てしなく面倒になってくる。
これから上流階級で化かし合い繰り広げようっていう人種も多いのに、あんな露骨に態度に出てて大丈夫なのか?まあ、俺には欠片も関係がないから、勝手にやっててくれって感じだが。
と、まあそんなことを考えていたわけだが、それはいいとして。
そんなことよりシンだ。
さっき連絡先をもらったときは気づかなかったが、終わったら迎えに行くって、シンは今授業中じゃないのか?
「一応、連絡は入れてみるか・・・」
俺は、胸ポケットに大事にしまっていたメモを取り出すと、スマホをタップしていく。
これがシンに繋がる番号だと考えるだけで、ただの数字の羅列が途端に神聖なものに見えてくるから不思議だ。恋は偉大だな。
最後の一文字を入れ終わったため、さっそく通話ボタンを押してみる。
1、2、3コール目が鼓膜を震わせた。
やっぱり出ないか・・・?
と思ったときだった。
『チィか?』
電話口から、俺の心を惹きつけて止まない声が聞こえた。
思わず声が弾む。
「そうだ。シン、さっき気づいたんだが、今授業中じゃないのか?電話なんて出ていいのか?」
『ああ、それについては後で説明する。で、終わったのか?』
「ん、もう帰っていいらしい。っていってもまあ、俺は寮の位置すら分からないんだが」
『大丈夫だ。迎えに行くから、今いる場所を教えてくれ』
「教室でてすぐの、中庭っぽいところのベンチだ」
『わかった。すぐ行く』
ぷつっ という小さい音が鳴って、通話が終わる。
途端にすることもなくなった俺は、ここにいたるまで全く気にも留めなかった周りの風景を、やっと目に入れ始めた。
そこは、緑に溢れた、美しい庭園のようだった。
対岸といっていいほど遠くに、さっきまでいた棟と渡り廊下で繋がったもう一つの棟が見えるため、多分中庭と呼べるんだが、明らかに中庭の面積じゃない。
そしてなぜそこまで執着しているのかはわからないが、ここにも薔薇のアーチの先に噴水がたっていた。
今日何度目になるか分からないが、もう一度言う。
金持ちは本当に何考えてるのかわからん。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
2 / 7