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危険を予測して回避することは重要だが、本人のことは本人が一番分かっているということなのだろうか。
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「ここが寮だ」
「は・・・?」
そう言ってシンが足をとめたのは、どこぞの高級マンションを髣髴とさせるような、とてつもなく大きい建物の前だった。
「・・・これ、本当に寮なのか?」
「本当だ。まあ、確かに一般的な寮のイメージではないのは認めるがな」
そういって肩をすくめるシンは、
「ほら、行くぞ」
俺の手を軽く引いて、歩みを促す。
その指示に大人しく従って寮内に足を踏み入れてみれば、外観からも予想のつくとおり、こちらもそうとう常識を知らない様相だったとだけ伝えておく。
もう何も言うまい。
自動ドアをくぐった先に広がっている広い空間を横切りながら、シンが説明をしてくれる。
「各階の北向きの角部屋は寮監室になっていて、基本的には自分の住んでいる階の寮監室を使うことになる。
寮監室を通す案件といえば、外出届け、外泊届け、それと外からの荷物の受け取り、寮内に関するちょっとした問題とかだな。
だが、それとは別に、入寮時の手続きとかの大きな案件になると、一階ロビー横の寮監室本部のほうに行く必要がある。
今日は本部に行った後、階の寮監室にも行くことになるな」
「なるほど」
そういってシンが向かっていく先には、ホテルのロビーのような場所が確かにある。
受付カウンターみたいなのの前にボーイみたいなのも立っている。
異次元だな。
「寮監室本部の生徒用入り口はここだ。俺はロビーで待ってる」
そういって離される手。
はやく戻れるよう、さっさと終わらせないとな。
俺は、本部の扉横についているインターフォンを押した。
すると、ぴんぽーん と軽快な音が鳴ってすぐ、
《はーい。今出るわー》
インターホンのスピーカーから明るい声が聞こえた。
そして10秒もたたないうちにドアが開くと、
「お待たせー!よくきたわね。さ、はいってはいって!」
と、怒涛の勢いで腕を取られ、いつの間にやら部屋の中に引き擦り込まれていた。
その驚くべき手際のよさと怒涛の展開についていけず、俺はしばし目を白黒させる。
そんな俺の様子に気づいたのか、目の前の人物が「あらあら」と言うのが聞こえた。
「ごめんなさい。驚かせちゃったかしら」
そう言われてようやくはっと我に返った俺は、目の前の人物をしっかり確認できるようになって、またしても唖然とすることになる。
俺の腕をものすごい力で部屋に引っ張り込んだ目の前の人物は、どう考えても男子校の寮監にするにはリスクの高そうな、中性的な若く美しい方だったからだ。
長い栗色の髪と、バサバサと音がしそうなほど長い睫毛は同色で。
きっとカラーリングではなく地毛なのだろう。
そして、すらりと長い手足に、ひらひらと揺れる膝丈のワンピースがよく似合っていた。
おもわず観察してしまった俺を前にしても、その人は気分を害した様子もなく、
「さ、こんなところで立ち話もなんだし、はやく上がってちょうだい?」
そういって、先導するように先を進んでいった。
寮監室はデザイナーズマンションのような内装になっていた。玄関で靴を脱ぐスタイルだったため、急いで靴を脱ぎ、追いかける。
広々とした廊下を抜ければ、これまた金の掛かっていそうなリビング風の応接室に到着した。
「じゃあ、あなたはそっち側に座ってね。今お茶を出すから」
そういって指されたのは、テーブルを挟んで二脚置かれた二人がけソファーの片方。
ぱたぱたと軽やかな音をたてて部屋を出て行くその人を見送ってから、俺はソファーに浅く腰掛けた。
どうも、想像していた寮監室とちがって頭が困惑する。
俺のなかではもっと、事務室のような職場的なイメージがあったんだが、まるで誰かの個人宅にお邪魔しているように感じられて居心地が悪い。
壁に、額に飾られた誰かの写真が大量に飾ってあったり、
ファンシーな動物のカレンダーに大きく丸がしてあったり、見れば見れ程、誰かの家のリビングに乗り込んだように思えてくる。
はやく、戻ってきてはくれないだろうか。
そう思いながら部屋を観察していると、
「おまたせ~」
さっきの人がお盆をもって舞い戻ってきた。
そしておもむろに俺の対面に座って、揃いのカップを自らと俺の前におくと、
「さて、じゃあ自己紹介ね。私は寮監長の岸 浩介(きしこうすけ)。こんな見た目してるけどれっきとした男よ」
と、長い髪を耳にかけながら言った。
その笑顔はどこまでも愉しそうに輝いていて。
俺は、『ああ、この人は愉快犯だ』と咄嗟に思ったのだった。
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