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見た目詐欺というのは、騙すほうも騙されるほうも気を遣うことになるんだという新発見。
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「俺は、今日からこの寮でお世話になる夏木千世と言います。
お綺麗だとは思いましたが、男性であることは察していましたよ」
遊ばれるのも癪だと思って、さらっと告げてみる。
すると、さっきまで飄々とした笑みでこちらを伺っていた彼が、その大きな瞳を輝かせ始めた。
あれ、思っていた反応と違う…?
「君、なんで分かったの?!」
「!」
ずずいっ
そんな擬音が当てはまるほど近くにその中世的で整った顔がやって来て、俺の体は反射的に反った。
目の前の、歓喜の色に染まった大きな瞳が、心なしか潤んでいる気がする。
「そりゃあ、そもそもいくら華奢でも骨格からして女性よりもしっかりしていますし、なにより歩き方や動き方の端々が男性的でしたから。総合的に見て身も心も男性なんだろうな、と」
「身も心も男性…」
俺はのけぞったままの体勢で、押され気味に答えた。
その答えに、目の前の彼は呆けたような顔をして、小さくつぶやく。
そして、大きくかぶりをつけて立ち上がったかと思うと、
「ありがとう!そんな風に言ってくれたのは君が初めてだよ!」
と、テーブルから乗り出すようにして俺の手を握った。
「君の審美眼は確かだね。うれしかったから、これからも気軽に相談に来ていいよ!」
そういって花のように笑う。
「ほら、このお茶請けも僕が自分で焼いたんだ。紅茶も冷める前に飲んで飲んで」
彼に切り替えも早くお茶と菓子を勧められた。
さっきまでのわざとらしい、女性への擬態をする必要のなくなった彼はなんだか嵐のような・・・というか、花吹雪のような人だった。
遠目から見る分には感動を覚えるほどに美麗でありながら、渦中にいる者にとってなかなかにやっかいなところなどそっくりだ。
お茶請けの中で一番目を引いた桜色のクッキーをかじりながら、俺は心の中で密かにため息をつくのだった。
「さて。それじゃあ要件を聞こうかな」
彼がようやくそう言ったのは、ちょうど俺が4枚目のクッキーに手を出した時だった。
その間一体何をしていたんだ、といえば、彼の、女性に間違えられることへの鬱憤や、男子校に若い住み込みの女性が配置されるはずがないだろうという話、なのに女性に間違えられるためいっその事わざと女性だと勘違いさせたほうが自分の精神安定上よいため女性へ擬態していたことなど、まあ要するに愚痴を聞かされていた。
いい加減外で待たせているシンが気になっていたし、そろそろ本題を、と思っていたところだったため丁度良かったのはよかった。
だが、長い足を組み、その膝の上でひじをつくという格好で真剣に言われると、どこぞの雑誌モデルを見ているようで微妙な気分になった。
「はぁ・・・そんなことをわざわざしなくても、俺はあなたに惚れたり、ちょっかいを出したりなんてしませんよ」
「・・・なんでそのなことわかるのさ。今までにもそういったやつは何人かいた」
思いっきり、「目論見がばれて不満です」という顔でぶすくれ始めた彼。こどもか。
「そんな心配はいりませんよ。俺は恋人を溺愛してますし、あなたは俺の恋人とと真反対な人物ですから」
「そうなの・・・? まあ、僕のこと女だって勘違いもしなかったし、一応信じとくけど」
まだ疑ったような表情をしつつも納得する彼。
ただ、「でもなんか、好みと真逆っていわれるとそれはそれで複雑な気持ちなんだけど・・・」なんて文句が聞こえてきた。
別にそこまではいってないし、惚れられるのはもう嫌だって文句を散々言ってたんだから、そこは喜んでくれ、頼むから。
そして、一番大事なことを忘れている。
「それで、本題にはいつ入ってくれるんです?」
「あ。」
「ごっめーん」なんて軽いノリで謝ってきた彼がいうことには、基本は定められた寮の部屋に住まなければならないが、性格の不一致などにより同室者と住むのが苦痛だったりする人達用に、一時部屋替え届なるものがあるらしい。
それをすると、寮監の是非無しでも最低3日は部屋を移ってもお咎めがないという。
ただしそれには条件があり、移る部屋の住人がもともと一人部屋であるか、どちらかの生徒がなんらかの事情で部屋から出払っているときに限るとのことだった。
「つまり、恋人の部屋に泊まりたいときは邪魔者を追い出しちゃえ!ってことだね」
「寮監がそれを言っていいんですか・・・」
この人が寮監の総括でいいのか、学園側に小一時間ほど問い詰めたい。
「いいのいいの~。だってもともと、寮監長って事務方で権限なんてほぼないしね~」
あはは~、なんて軽くいってのける彼は、部屋の隅のほうに山を作っている紙束を横目でちらちらと見せてくる。
たしかに、そう言われると納得なのか・・・?
「まあそんな感じだから、移りたいならこの書類に記入して後でもってきてね。こっちは寮監室本部の仕事だから」
「わかりました。じゃあ、またあとで伺います。失礼しました」
「うん。またお茶のみに来てね~」
決して俺はお茶を飲みにここに来たわけではなかったのだが、朗らかに笑う彼を見ているとなんだかそれもいい気がしてきた。
今度、シンと別行動する機会でもあったらお茶をしに来てもいいかもしれない、なんて思うのだった。
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