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よく脳筋やら頭でっかちやらは見かけるが、脳筋な頭でっかちの頭の中はいったいどうなっているのか割って確かめたい。
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寮監室本部の扉からロビーへ出ていくと、少し遠くに設置されたソファースペースにシンの後ろ姿が見えた。
銀髪ってわかりやすくていい。まあ、銀髪でなかったとしてもシンなら一発で見分ける自信はあるがな。
足音を立てないように背後からシンのもとへ近づいて行く俺。
すぐ後ろにまで接近してから、シンの首に腕を回した。
「シン悪い、またせた」
「おう、おかえり。そんなにまってねえから気にすんな」
驚いた様子のかけらもないその反応に、やっぱりばれていたことを悟る。
シンは俺の回した腕にご満悦なのか、俺の左手をとると薬指を甘噛みしてくる。
そして左手を解放したかと思えば、そのままの体勢で首だけで俺を見上げて、
「そんなに待ってはいねー。けどやっぱ、少しでも待つのは我慢ならねえから、次は俺も中までついてく」
と言って、俺の頭を下に引き寄せてキスをした。
その凶悪なまでの可愛さといじらしさにすぐに陥落した俺は、そこがロビースペースであることなど頭の端に追いやって、巧みな動きをする舌を絡めとるのだった。
しばらくして
「シン、そろそろ行かないと」
そう俺が声をかけると、シンは若干眉間にしわを寄せながら渋々と頷いた。
「…まだ足んねぇ」
なんて文句を言いながらも俺の手を取って歩き始めるあたりが、本当にいとおしくてしょうがない。
一体どこまで惚れさせるのだろう、この男は。
不満そうな顔とは裏腹の、やさしい手の感触。
気遣いもできるなんて、本当に俺の彼氏は世界一だな。
「俺も、もう少しああしてたかったな。はやく終わらせて、さっさとシンの部屋に行こう」
「あぁ。フッ さっきと逆だな」
「そうだな。さっきは俺がシンにそう言われたんだったか」
そう。
確か、踊った後、職員室に向かうために離れた時がそうだったはずだ。
二人して諫め合うことになるなんて、これはなかなかにバカップルチックだな。
ちょっと可笑しくなった。
二人で他愛のない話をして進んでいく。
その道筋は俺たちの息遣いを互いに聞かせるほどに静かだった。
…当たり前か。
今は本来授業中なのだから。
本当に、シンは抜けてきていて大丈夫なのかと不安になってしまう。
まあ、本人が大丈夫というのならそうなのだろうが…
「ひと段落して寮の中に引っ込んだら、お互いいろいろ話をしなきゃだな」
「ああ。俺も、チィにはいろいろ聞きたいことがある。…ただまあ、先にこっちを片付けなきゃだけどな」
そういってシンは立ち止まった。
今までに見てきた、優美ながらもしとやかで落ち着いたドア群と違い、妙な威圧を放つドアだ。
「ここが、寮監室01だ」
「ここが…」
人の気配が、ドアの向こうから感じられる。
かなり力強い気配がするが、この部屋の主はいったい…
「…チィは気づいたか」
「この、妙に威圧的な気配のことか?」
「そうだ。異様な雰囲気してやがるよな。中身のヤロウも相当だぜ」
凶悪な目をしたシンが、舌なめずりをしながら扉を凝視している。
シンがこれほど興奮するってことは、やっぱりそっち関係のやつだよな…
俺は、扉を見つめるシンの気を引くように、わざと大きく身じろぎをした。
「ん、どうした?」
「…あまり愉しそうな顔をされると、嫉妬をするからやめてほしい」
「っ…! 本当に、チィは性質がわりぃ。あー、あいつに会わせたくねえ」
自らの頭をくしゃくしゃとかき乱したシンが、つないでいた手を引いて、俺を腕の中に閉じ込めた。
背中側から、俺の肩の上にシンの頭が乗せられる。
「あいつ?」
「あー、この部屋の中にいるやつだ。戦闘狂で脳筋のくせに、妙に頭でっかちな考え方をしやがる。ただまあ、殴り合って一番おもしれえのはあいつだな。…チィを除けば」
『チィを除けば』の部分だけ、耳元で囁くように吹き込まれる。
まったく予想していなかったシンの行動に、思わず「んっ」と鼻から抜けるような声が出てしまう。
「その声…はぁ…生殺しだ」
「…シンがやったことだろう」
「もっともだな…」
肩をすくめてあっさり離れていくシン。
何の気なしに目で追ったそこには、隠し切れない欲を含んだ眼があって、見据えられた俺はぞくり、と体を震わせた。
“射貫かれた”
本能的にそう感じる視線だった。
「はやく終わらせようぜ。もたもたしてたら、このままここで盛りそうだ」
「それは…冗談にもならないな。はやく終わらせるとしよう」
シンの言葉にうなずいて、目の前にあったインターフォンを押す。
雰囲気に似合わぬ軽快なメロディーを響かせながら、呼び出し音がなる。
すると、中からひしひしと感じていた気配が近づいてきた。
そしてそのまま、玄関の内カギを開け放つ音がした。
おい、せめて相手を確認してからドアをひらけ。
とまあ、そんな突っ込みを脳内で入れたところで、部屋の主が姿を現した。
まさしく筋骨隆々、硬そうな黒い髪の毛を短髪に切りそろえた眼光の鋭い男だった。
一字に引き結ばれていた男の口が開く。
「どこの者だ、名を名乗れ」
「いや武士か」
思わず声に出して突っ込んでしまった。
いや、これは不可抗力だ。
これがツッコミまちでないのなら、相当な時代誤差のけったい野郎だぞ、この男
「武士ではないが。そんなことより、どこの者だ。何の用があってここを訪ねた」
どうやらツッコミ待ちではなく素でけったい野郎だった様子。
「今日越してきた。どうやら1階の部屋になったらしいからな、挨拶がてら説明を聞きに来たんだ」
「なるほど。承知した、中に入れ。説明と処々の必需品をやろう」
そういって、入り口をふさぐようにそびえたっていたけったい野郎は、俺たちに向かって入り口を開いた。
すると、
「ん?なぜここに大神がいる」
「いや、気付くの遅すぎか」
心底ふしぎそうな顔で言い始めるので、またしても声に出して突っ込んでしまった。
「はっ、鈍いのは相変わらずか、佐生(さおう)」
「貴様の気配が弱弱しいだけだ」
「言うじゃねえか。そもそも、てめえが常日頃からやる気を出して威圧感振りまきすぎなんだよ」
「私はそうしているおかげで、貴様みたいにしょっ中絡まれる、なんてことにはなっていないがな」
「お前のは必要な奴すら遠ざけてんだろうが」
「その程度、後々のいざこざに比べたらよっぽどマシだ。そしてなにより、効率がいい」
「…お前ほんとうに分かってねえな」
とうとうシンが呆れたようにため息をついて、言い募ることをやめた。
まあ、分からんでもない。
こいつはどうやら、人とのかかわりが上手くないと同時に、人との付き合いを非効率的だと思っているらしい。
なまじ、この堂々としたオーラから、自分一人で何でも対処できてきてしまった口のやつだろう。こういう輩は一度挫折してからでないと、俺たちの言っている意味なんて理解しようとも思わないだろうし。
根本的に俺たちとは考えが合わない。
シンが、脳筋で頭でっかちと言っていた意味がよく分かった気がした。
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