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7.嵐の前の静けさ、とはいうものの実際、嵐の前であろうがしょせん暴風雨に見舞われるものだ。
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「そこにかけてくれ、と言いたいところなんだが、今案件が立て込んでいてな。御覧のありさまなんだ。悪いが、適当な場所にスペースを作って座ってくれ。私は茶を入れてくる」
そういって差された場所には、応接のための低いテーブルと座り心地のよさそうなソファーが置いてあった。
・・・ただし、山盛りのプリントが雪崩れ、到底人の座るスペースなど確保できない有様の、という注釈が付くが。
「こんなもん、何処をどう動かしたら人の存在できるスペースなんてもんが確保できるんだ?」
どう考えても無謀だ、と顔に書いてあるシンが、ポツリと呟いた。
俺もそれには同意する。
ただ、茶を入れてくるという事はそれだけ説明の必要な事柄が存在しているということで。その短くはない時間を、こんな混沌とした部屋の中で、直立したまま過ごすのは勘弁したい。
「・・・まあ、忙しい中対応してもらっているのは一応こちらだしな」
と俺が言うと、シンはその言葉だけで俺の言いたいことを理解したようで、不服という表情をしたまま、
「・・・アイツの分のスペースまで確保できるかは、この書類次第だぞ」
というのだった。
そうして、俺達がなんとかスペースを(無理やり)捻出したころ、お盆に湯呑を3つ乗せた佐生が帰ってきた。
・・・やっぱり、紅茶じゃなく日本茶か。
「私の分まですまんな」
テーブルの上に物を置くスペースなど存在しないために、湯呑を各自手に持ったまま腰を掛ける俺達。ちなみに、ぼんは床の上だ。
「今更だが、俺は佐生 光親(さおうみつちか)という。この寮監室01を受け持ち、さらに寮監の長を務めている者だ。
まず、寮監室についての説明だが、基本的には外出届、外泊届、外部からの荷物の受け取り場所だと思ってくれていい。」
そういった佐生は、湯呑を傾けて茶をすすった。
ここまではシンに聞いていた通りだ。
「ただ、それ以上に重要な役割として、寮内の治安維持という役割も担っている。簡単に言えば、寮内限定の風紀委員みたいなものだ。
寮監はそもそも風紀委員長の推薦者のみが就任できる、いわば風紀から枝分かれした学生組織でもある。」
ほう、それは初耳だ。
と、いうことは、先ほどの寮監室本部の本部長が自らの事を”事務方”といったのは、実質的に生徒が権限を握っているから、ということか・・・。
「外部生の貴様には馴染みがないだろうが、ここの学園は少々特殊でな。委員会というものが、そしてとくにその委員会の中でも生徒会と風紀委員会が大きな権限を握り、運営を行う。つまり、学園全体が学生の自治によって成り立っている。
まあ、時の権力者の提案によってつくられた『統治、運営を実践的に学ぶための学校』というやつだ。
つまり、上位に行けば行くほど学生は権力を増し、逆に言えば弱い者はとことん底辺まで転がり落ちる。まさに社会の縮図だ。
当然、表向きは金持ち校でも治安は最悪になる。風紀は学内の事で手一杯だからな、寮に関しては寮監に風紀を一任するというわけだ。
つまり、預かりどころだの外泊届だのとは言うが、結局は治安維持組織の役割が大きい。当然、寮内で問題行動をおこした生徒に罰則を与える仕事も、請け負っているのは俺達だ。
ここまでの内容がもし理解できたのなら、くれぐれも私の仕事を増やすような真似はするな。理解できていないのならば、その時に思い知ることになるだろうがな。」
そういって佐生はずずずっと湯呑をすする。
言い方はいけ好かないが、まあ言いたいことは伝わった。
つまり、表面的な事務仕事よりも裏方で本命の仕事の方がよっぽど忙しいから、問題を起こすなということだ。
これは、なにか問題を起こそうものなら、この今にも雪崩れそうな書類の束で頭をかち割られるほどに憎まれそうだ。
どうせ、この大量の書類はそっちの仕事のものなんだろう。
俺は大人しくうなずいておいた。
風紀はまだしも、そもそも治安を乱す行為はただの犯罪ではないのか、と言いたいところだが、そこはさすが社会の縮図。
どこにでも事件、犯罪はおこるし、そこには大抵クズや犯罪者が根底に絡んでいるということだ。
ある意味お察しである。
そんなところまで社会を表現する必要はなかったのではないか、と俺は思うが、そもそも金持ちの考えを理解しようとする方が無謀だ。
まあ、そんなこんなで、いけ好かない言い方でがっつり警告をされたわけだが、無事に必要な物資もろもろは手に入れたため、やっと寮部屋に向かうことが出来た俺達だった。
この時点で若干、この学園の異質さに頭が痛い想いをしていたのだが、このあと向かった俺の部屋(暫定)で、もっと酷い頭痛を感じる羽目になるとは、この時の俺はまだ考えもしていなかったのだが。
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