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宮近
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次の日、川西は学校に来なかった。ここ最近は校門をくぐるとどこからともなく現れ、横にぴったりついてきたのに。
やっぱり昨日のことが原因だろうか。
僕が悪いのか?でも、男同士でキスなんて…。
川西のことで頭がいっぱいで、気づいたら教室に着いていた。
「…あれ?」
僕、無傷だ。
ここまで誰にも絡まれなかった。川西に会ってからそういうことはなくなってたけど、今までは何発か殴られないと教室にはたどりつけなかったのに。
まあ、いいや。殴られないに越したことはない。
その後も、1日は平和に過ぎていった。いつも僕をいじめてくるメンバーも見かけたけど、何もしてこない。
川西につきまとわられず、いじめにもあわない生活。なんて楽なんだろう!今が人生で一番幸せなときなんじゃないか?
「あ、地底人」
「あ…」
このまま何事もなく帰宅できると思っていたのに、昇降口で、僕に地底人というあだ名をつけた張本人、宮近と会ってしまった。
宮近は暴力をふるってきたりはしないけど、止めるわけでもなく、いつも僕へのいじめを静観している。
あまり関わりたくないからそそくさと帰ろうとしたら、腕をつかまれてしまった。
「お前と川西って、どういう関係なの?」
「…え?」
どうしてそんなことを、と思ったけど気になって当たり前か。不良の川西が僕に始終くっついているとなれば。
「あいつの弱みでも握ってるの?」
「えっ、いや、そんなことは」
「川西が今何してるか知ってる?」
「知らないけど…」
なんだろう。なんかすごく、嫌な予感がする。思えばこんなにまともに宮近と会話するのなんて初めてだ。
宮近は僕の反応を確かめるみたいに、ゆっくりと告げた。
「川西は今、林たちにリンチされてるよ」
「えっ?な、なんで?」
林はよく僕に暴力をふるっているグループのリーダーだ。林より川西の方が全然強いはずなのに。
「川西が言ったんだ。これから毎日、学校終わったら自分のことを殴っていいから、お前に手を出すのをやめろって」
「へ…?」
「そしたら林たち、喜んで承諾したよ。普通にやったら川西を殴るなんてできないもんね」
心臓の鼓動が急に速くなった。
僕を守るために、川西が自分の身を犠牲にしている。
僕が昨日、近づくなって言ったから?
そんなの嫌だ。僕なんかのために、川西が痛めつけられるなんて。
「どこ?」
「は?」
気づいたら、僕は宮近に詰め寄っていた。
「川西くん、どこにいるの?」
「知ってどうするんだ?」
「川西くんを助けに行く」
「お前が?」
「ぼ、僕が」
宮近は無表情で僕を見つめている。怖いし、何もできないかもしれないけど、でも、川西のところに行かなくちゃ。
「校舎の裏。桜の木がある場所だ。早く行け」
宮近はそう言って、僕の背中を押した。
「どうして教えてくれるの?」
「お前にはずっと悪いと思ってた。俺のつけたイカしたあだ名のせいで、こんないじめに発展するとは思ってなかったから」
「…え?」
イカしたあだ名?
地底人って、そもそも悪口じゃなかったの?
ぽかんとしていたら、宮近に軽く蹴られた。
「いいから行けよ。川西がやられるぞ」
「う、うん!」
校舎の裏の桜の木の下。
川西と初めて会った場所に向かって、僕は走り出した。
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