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Your kiss is sweeter than honey. 出会い編
出会い 1
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記憶が無い自分を、雇いたいと言ってくれたマスターにあの日受けた恩を必死に返すように、頑張って仕事を覚えた。
感情も無くしてしまっていたのに、暖かくマスターは見守ってくれていたから、笑えるようになった。
相変わらず感情が少し乏しい気もするが、純喫茶『猫』で働くにつれて、次々と感情が出てきていた。
常連客にすっかり顔を覚えられて、聖梨(ひじり)は可愛がられている。
このくすぐったい感情が、『嬉しい』という感情というのも最近、知った。
カランカランッとドアチャイムが揺れて、ドアが開く。
「いらっしゃいませ!」
普段の声よりも力を入れて、挨拶をする。
「聖梨くん、いつもの」
「はい!…マスター、モーニングで茹で卵半熟、サラダ多めで」
「はいはい」
今では、常連客の『いつもの』と『好み』まで覚えた。
「おっ、覚えてくれているね~」
「はい、それでも至らないところがあったら言って下さいね」
「至らないところなんてないよ。ねぇ、マスター?」
「頑張ってくれるから、私も辞めずに店が出来るしね」
「一時期、マスター辞めるって言ってたもんね~。良かったよ!聖梨くん雇ってくれてさぁ」
聖梨と出会った時、マスターの奥さんは亡くなり、マスターは店を辞めようとしていた。
ストレス性ショックで、何を食べても味がしなくなっていたから店を辞めようと思っていたらしい。
そんな時に、聖梨を拾って衣食住を提供してくれた。
聖梨もまた、味がわからなくなっていたが、マスターの料理のお陰で『美味しい』というのが思い出せられた。
マスターも、聖梨を雇った事や、常連客の後押しで味がわかるようになった。
屍のようだった、自分を変えてくれた。
そして、今では親子のように接してくれている。
マスターに拾われた時に食べた、フルーツの味が忘れられないでいた。
そして初めて、自分が好きな食べ物はフルーツだとわかった。
もちろん、その時食べさせてもらった、マスターが入れてくれたカフェオレとハニートーストも大好きになった。
(マスターが作ってくれる料理は、どれも好き)
マスターの性格が出ているような料理は温かみがあり、優しく身体に染み渡る。
フルーツや野菜も、わざわざ市場まで足を運びマスターの目利きで毎日買って来るのだった。
常連客が、絶えず通うだけはある。
コンロからジュワーっと、ベーコンの焼ける匂いがした。
コーヒーの入れたての匂いもしてくる。
「聖梨くん、お願いね」
「はい」
常連客が注文をしたモーニングセットがカウンターの上に並ぶ。
聖梨はカウンターに座っていた常連客に、持っていった。
「お待たせしました、モーニングセットです」
「おぉっ、美味しそうだ。いただきます」
常連客は見ていた新聞をたたみ、モーニングセットを食べ始めた。
カランカランッとまた、ドアチャイムが揺れて、ドアが開いた。
「いらっしゃいませ!」
ドアに振り返って挨拶をする。
いつもの常連客だと思い、顔を見ようとした。
聖梨は客を見て、ビクッとする。
この純喫茶に、不似合いな客がドアを開けたからだ。
「…」
ドアの側にはサングラスをかけ、黒スーツの長身の男が立っていた。
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