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腐女子に目覚めたハル-1
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「なるほど。腐女子に目覚めたのね。別に変なことでは無いから」
「そ、そう?……今でも彼らを思い出すと……その、自分まで……勃ちそうなんだけど」
「……ハルには生えてないから安心して」
その美琴の当たり前の言葉を聞いた途端にガーーンと音でも鳴りそうな勢いで、一気に気分が急降下していった。ハルの落ち込みようはかなり深い。
「萎えた」
ボソリと呟くと鉛のように重たい体を必死に動かし、虚ろな目をしながら部屋を出ていこうとする。
その姿が余りにも可哀想で、美琴は声を掛けることも出来ずにその場でフリーズしてしまい、一階から「ハルちゃん帰るの?またおいでね」という兄の声を聞くまで動けなかった。
呪縛から溶けた美琴は慌ててハルにメッセージを送るためにスマホを異常な速さで操作し文字を打ち込むと、確認する時間も惜しんで送信した。
《ハル。ようこそ腐の世界へ。
明日、あなたが喜びそうなものを持って行ってあげるから一晩我慢してね。
形はどうであれ成長したことを素直に喜びましょう》
サラッと読み返した後しばらく待ってみて、そのメッセージに既読がつくと、意味もなく腕まくりをして今は不在の弟の部屋へ向かった。
美琴は腐女子では無いが同性愛に嫌悪感は無い。
腐男子である弟・直斗から彼のコレクションの薄い本を見せてもらった時に、萌えを感じることは出来なかったのだが、理解しようと積極的に読み漁ったので知識だけは豊富である。
弟は気に入った物なら保存用に必ず同じものをもう一冊購入して、大切に保管してあることも把握済みだ。
自分が学園に行っている間は何度でも好きに見て良いと許可も得ている。
定期的に掃除され埃が払われた清潔な本棚の前に立つと、一冊ずつ丁寧に手に取り初心者向けのものを選ぶために物色し始めた。
*
ハルはエンジニア部なので経理部の美琴とは出勤時間が合わない。
翌日先に仕事を始めた美琴はソワソワと落ち着きが無く逸る気持ちを抑えながらハルを待ち、血の気の失せた幽霊みたいな顔をして出勤して来たハルを捕獲すると、女子ロッカールームへと引きずり込んだ。
「なんて顔をしてるのよ」
「…………やっと……やっと欲情したのが男の子同士の恋愛だなんて……しかも、自分には勃つモノが……生えて無いだなんて」
「そんなことで打ちひしがれてる場合じゃないわよ!やっと見つけた楽しみを逃すんじゃないの!」
鈍く光るグレーのロッカーを開けて重みのある紙袋をハルへ手渡しながら、新たな趣味を発見した親友を心の中で祝っておいた。
少し不貞腐れたハルは訝しげな目をしながら紙袋を受け取ると、ゴソゴソと中身を確認し始めた。
徐々に切れ長の美しい形をした目が開かれていき、その周りがほんのり紅く色付いて活気が戻って来る姿を見ると、美琴はホッと胸をなで下ろした。
「これは!噂の同人誌ってやつかな?」
「そうよ、腐男子の直斗に感謝してよね……萌えを語りたくなったらあの子に連絡を取って相手にしてもらうといいわ」
ニヤリと微笑む美琴の姿が、ハルの目には女神に映った瞬間だった。
その日から元気を取り戻したハルは、ボーイズラブという男性同士の同性愛を題材とした小説や漫画を熟読し、知識を詰め込みながら滾る胸の内を直斗と共に語り合った。
ハルの部署は過酷な仕事内容により社内でも完全に独立されたブラック企業並みの環境なので、殆どの者が弱り果てた挙句、体調を崩して退社していく者か、逆に覚醒して人体の限界を超えた強者かに分けられる。
ハルは常にボーイズラブから『萌え』という名の最強エキスを吸い取っているおかげで、社内で人間を超えた超人として新人などからは憧れ尊敬されていた。
「栗林チーフ!そちらが終わり次第、関口のプロジェクトの応援に回ってくれ!」
「はい!了解です!」
デスマーチに入り他のエンジニア達が設計椅子の上に体操座りをしながら明後日の方向を眺め、不気味に何やらブツブツ唱え始める納期寸前の修羅場ですら、ハルだけは活力を漲らせ周りを戦慄させた。
気が付けばチーフエンジニアという役職を務めるまで出世しており、同年代の女性達とは比べ物にならない程の報酬を得ていた。
給料がアップすればそれに比例してハルの部屋にはBL関連の物が増えていき、大学生になり地元に戻ってきた直斗とはお宝を交換する間柄になった。
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