アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
魔力解放作業-1
-
スコットを治療したハルと『ご褒美』の内容を想像しながら途方に暮れるリバーダルスが、治癒魔法を目にして興奮冷めやらぬ令嬢たちに囲まれ、過剰なスキンシップを受けている姿に見かねたテッドは、後から来たクリスと共に彼らを回収した。
「ハルお見事だったね!もうじき見学時間も終わるから、後少しの辛抱だよ」
令嬢たちから移った香水の匂いを手で叩いて落としているハルに、苦笑いを浮かべながらテッドが励ましの言葉を贈っていると、セルディが急いで近付いてきた。
「ハル。そんなの叩いても匂いは落ちないよ。*****、ほらこれで大丈夫だ」
風魔法を得意とするセルディが短く詠唱すると、ハルの体の周りに小さな竜巻が起きて、素早く匂いを吹き飛ばしていく。
「ありがとうセルディ!!テッドも助かったよ」
リバーダルスは切り替えが早くさっさと訓練を開始しており、制服の上からでも引き締まった筋肉が、彼の動きに合わせて綺麗に波打っているのが分かる。
肩幅が広く逞しい体格の割には、意外と細くて抱き心地の良さそうな腰を眺めていると、令嬢ではなくても見惚れてしまい、思わずゴクリと喉を鳴らして唾を飲み込んだ。
(うわーしゃぶりつきたくなる体だな。今夜彼を……いやいや、急いじゃダメだ。僕はじっくり攻めていくタイプだからな)
早急にことを急いだ生徒会長が『受け』に嫌われてあっさり風紀委員長に持っていかれたなんて話はざらにある、などとハルが過去に読んだBLを教訓にしようと厳しい顔をしていると、何を勘違いしたのかジュリアスが見学者から最も遠い場所まで移動して、再び剣の指導を始めた。
「ジュリアスありがとな。でもここ迄気を使わなくても大丈夫だよ。見られることには慣れているからさ」
「そうか……ハルは元の世界でも人気者だったんだな」
「まあ学生の頃だけどな。さて師匠!稽古の続きをよろしくお願いします!」
少しおどけた口調で剣を握り直したハルを見て、ジュリアスもにっこりと微笑んだ。
*
午前の訓練を無事に終え食堂で昼食を取っていると、午後から特別騎士団員は魔力解放作業のため魔術師棟へ行くようにとリバーダルスから告げられた。
「魔力解放作業?何ですかそれ?」
「俺たちは元々魔力の高い魔術師だからな。時々溜まった魔力を外に出して解放してやらないと、具合が悪くなるんだ」
「ほう。溜まったものを出す。……つまりオナ禁後の射精みたいなものですね」
「「「「「ぐほっ、ゲホゲホ」」」」」
ハルのストレート過ぎる言葉を聞いて、その場にいた騎士達は一斉に食べ物を喉に詰まらせ、それを見ていたリバーダルスは長いため息を吐いて頭を抱えた。
「はぁぁぁぁ。もうハルは黙れ。それからお前達、気にせずさっさと食べろ」
リバーダルスの草臥れた様子を不思議に思いながら首を傾げているハル以外は、もしかすると自分達の魔力解放作業というのは魔力の無い者からすると、そういう(射精の)意味だと思われているのかも知れないと恥ずかしくなり、皆一同に顔を赤らめてもそもそと食事を続けた。
「結構普通の建物なんだな。確かにこちらの世界で九階建ては高い方だと思うけどさ」
「ハルの世界ではもっと高い建物があったのですか?」
「うん。僕の住んでいた国じゃないけど、百階建て以上のビルもあったよ」
魔術師棟を特別騎士団員たちが訪れると、ハルへの説明を自ら買って出たルピが隣にピタリと張り付いたのだが、ハルたちの会話に耳を傾けていた魔術師も騎士も皆目を見開いて驚いている。
この世界ではフジョーシ国の魔術師棟が一番の高さを誇っており、他国から訪れた好奇心旺盛な王子などは、必ず見学を要求してくるものだ。
「ひゃ、百階建て以上?……それは凄すぎて想像もつきませんよ!!」
ハルがこの世界へ召喚された神殿で魔力切れを起こして倒れていたルピを助けて以来、ルピは師匠であるモナと同じくらいハルのことも崇拝している。
騎士団の詰所である騎士団棟と、魔術師棟の間にそれぞれの寮があるのだが、魔術師の数が圧倒的に少ないため、食事は騎士団棟でまとめて取ることになっており、食堂で顔を合わせれば目を輝かせて飛びついてくるルピを、ハルは弟のように可愛がっている。
先日やっと敬称なしで呼んでもらうことに成功したのだが、ルピはあくまで丁寧な口調は崩さないでいる。
「異世界の話には俺も興味はあるのだが、今は仕事中だから私語は慎むように」
「はい!すみません!」
リバーダルスのお小言には慣れているハルとは違い、魔術師として非常に優秀なルピは普段モナ以外からは叱られることがないので、少し顔を赤らめると慌てて作業の説明を開始した。
「ーーだいたい分かったよ……予め魔術師たちが用途別に回路を組み込んだ魔石にそれぞれの魔力を注いでいけば良いんだよね」
「はい。紅色の魔石が火魔法、水色が水魔法、と言った感じです。今はまだ魔力が込められていないので、正しくは魔石とは言えませんが」
「なるほどな。この石が淡く光るまで魔力を注げば魔石として価値のあるものになるって訳か。よく考えられているな」
目の前には鶏の卵くらいの大きさの石が幾つかの籠の中に積まれており、色別に何属性の魔力を込めれば良いかひと目でわかる仕組みになっている。
魔術師はモナやルピのように群を抜いて魔力の高い者以外なら、それぞれ使える魔術が決まっており、多くても三種類使いこなせるのが限界である。
因みにモナとルピレベルの魔術師では全ての属性の魔術が使えるので、大変貴重な存在であり国民にとっては雲の上の存在だ。
特別騎士団の魔法騎士達も通常の魔術師よりは使いこなせるが、全てという訳にはいかない。
「これらは使い捨ての魔石で、魔力のない方々へ売られる一般家庭用です。本来は中級魔術師の仕事なのですが、需要に供給が追い付けず、皆で協力することになりました。僕は半永久使用できる魔石に魔力を注いでいます」
「分かった。でも僕はまだ治癒魔法と回復魔法ぐらいしか使えないよ?ああ、あとは解除魔法だっけ?そういうのって魔石に込めるものじゃないよな?」
「はい!さすが理解が早いです!ハルにはこちらの魔術回路が組み込まれている小瓶の中に、魔力を込めてもらえないかと交渉するようモナ様から言われています」
説明をしながらルピがこちらに引き寄せた箱の中には、中身がひと目でわかるようになっている、透明の小瓶が幾つも並んで入っていた。
「これは騎士の体力回復アイテムで、魔力を注ぐと飲みやすい液体に変り、戦闘や討伐に持参できるものなんです」
魔術師には回復魔法を施せば魔力を回復することが出来るのだが、元々魔力の無い騎士達には意味の無いことなので、体力の回復アイテムが配布される。
これとは別に魔術師用の魔力を回復するアイテムもあるのだが、騎士数の方が断トツに多いので体力回復アイテムに魔力を注ぐ作業が優先されている。
「回復魔法を使える魔術師は数が少なくて、皆目の下にクマを作りながらアイテムを作っていたんですよ。だからハルに手伝ってもらえると本当に助かるのですが、……とにかくこの作業は消耗が激しくて、お願いしていいものかどうか……」
いつも顔色が悪く、歩くのが精一杯で今にも倒れそうな魔術師を食堂で何度も見かけたハルは、彼らの疲労っぷりを心配して回復魔法をかけたことがある。
毎回見違えたかのように元気に復活する彼らを見て、自分の魔力が役に立っていることに喜びを感じ始めていた。
「僕が回復アイテムを作ったら、団長は嬉しいですか?」
自分の得意とする火魔法の魔力を魔石に込めていたリバーダルスは、ハルから突然話を振られて作業の手を止めた。
「なんだハル……俺がやれと言わなきゃ動かないのか?」
「僕の活力の源は全てリバーダルス団長の喜ぶことですからね。あなたの御心のままに!」
「……っ、ならば俺からも頼む。回復アイテムは常に数が足らずに頭を痛めている事案だからな」
「分かりました!やったー!スコットの治癒の上乗せでご褒美を下さいね!!!」
大喜びをするハルの姿を見て、自分の何を気に入ればそこまで従順になるのかと困惑するリバーダルスに構うものはおらず、現在も顔色の悪い魔術師一同からは、大きな歓声が上がり何時になく賑わいをみせた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
28 / 81