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魔物討伐 後編-1
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「ふぅ、まいったな」
「ハルお疲れさん。これルピから差し入れだよ」
「ありがとうテッド……僕は疲れていないよ。ただ、気持ちが沈んでしまうというか……」
「そりゃ仕方が無いよ。僕なんて初めての治療の時には、血の匂いに耐えられなくて卒倒してしまったからね」
ハルが休憩を取っていると近くに寄ってきて、苦笑いをしながら過去の話をして和ませてくれるテッドに心から感謝をし、彼が手渡ししてくれたルピからの差し入れを受け取った。
手のひらに乗せた小さく包まれた飴玉が、ルピの手作りで特別な魔力回復アイテムだと分かり、食べるのを躊躇する。
「ハル……食べた方が良いよ。元気が出るから。それに、他の魔術師達も貰ってるからね。……ハルが自分だけ良いのかなって顔してたから」
その通りである。
騎士ほどでは無いにしても連日の魔物討伐で、魔術師もクタクタなのは彼らの衰弱しきった様子ですぐに理解した。
彼らも貰えたんだと分かったハルは、皆が元気になるといいなと思いながら舌の上で飴玉を転がし、その甘さに一時の安らぎを覚えた。
「あれ?……団長、あそこで何してるんだろう」
「あぁ、団長は魔物討伐や戦いの合間を見て強化魔法をかけて下さるんだ。本当に優しいお方だよ」
「へぇ……」
ハルが目を向けた武器庫ではリバーダルスが剣や盾に向かって手を翳している。
特別騎士団員と第一騎士団員は自分専門の剣を保持しているので、腰に刺した状態で列を作って並んでおり、一人ずつ魔力を込め終えたリバーダルスに深く礼をしている。
「団長は莫大な魔力をお持ちだからね……惜しみもなく与えて下さるんだ」
「……はぁ、僕が好きになった人は中身も最高だな。よしっ!僕も頑張るぞ!」
「ははっ。ハルは団長が活力の源だもんね。あと半刻程で日が暮れ始めるよ。綺麗な夕日を背景に戦うなんて、夕日に申し訳ないけどね」
ハルの感覚的にこちらの世界は日が沈む時間が長く感じられ、夕映えに赤く染まった街並みは絶景であると感心している。
その夕日をバックにこれから命を懸けた戦いが繰り広げられることに漸く実感が湧いてきたハルは、思わず身体を大きく振るわせて武者震いをしてしまう。
「僕は主に治癒魔法を担当するんだけれど、氷魔法でも戦うんだよ。ハルという治癒魔法を分担してくれる存在があると、安心して戦えるよ。頑張るからね」
「テッド気をつけてな。……万が一君が傷付いた時は、僕がすぐに駆けつけるから!」
「ふふっ、何だか愛の告白みたいで擽ったいね。……うん、ハルも気をつけて」
全ての剣に強化魔法を加え終えたリバーダルスが武器庫から出て来たので、表情を引き締めて共に騎士塔へと向かった。
*
「ダメだ!奴ら次から次に湧いて来やがる!……くぅぅ、足が、あしがあああぁぁぁ」
「大丈夫ですよ。すぐに治癒魔法をかけますので、深呼吸をしていてください」
辺境の地が夕日の光でオレンジ色から深みのある赤銅色に染まりだした頃、物凄い数のS級魔物・ラビッタが襲いかかってきた。
ここを突破されれば領地が危険に晒されるため、領民は全て砦の塔に避難させているのだが、敗北してしまうとラビッタがフジョーシ国全土に広がり、被害が相当なものになるのは確実である。
酷い怪我を負った騎士や魔術師が運びこまれる頻度が高くなる度、ハルは最前線で戦う仲間達のことが心配になってきた。
「それにしてもハルの治癒魔法は天下一品だな!痛みもあっという間に吹っ飛んだぜ」
「本当に感謝してるぜ!これなら安心して戦えるってもんだ……あぁそうそう、前線でな、えげつない程強いんだが滅茶苦茶な戦い方をしている獣人がいて、俺らも心配しているんだよ」
息も絶え絶えの状態で運び込まれた怪我人たちは、ハルの治癒魔法によって前よりも元気になったと口々に言うのだが、そんな彼らの話を聞いて、ハッと顔を上げると強ばった声で質問をする。
「その獣人って、白髪の騎士ですか?」
「あぁ、そうだ。確か雪豹の獣人って言ってたかなーーえっ、ハルどうした?」
ハルはいても立っても居られなくなり自分の担当の患者が命に別状がなさそうだと確認したあと、ルピへ引き継ぎを頼んで救護室を飛び出した。
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