アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
武器庫で恋バナ-2
-
「美琴様とアンソニー兄上が恋人同士になったそうだぞ」
「あぁ、こないだ美琴に直接聞きましたよ。その時にアンソニー殿下にもお会いして、僕に謝罪をされました。牢に入れられたのは苦い経験ですけど……もう何とも思ってないですよ」
「そうか……それは兄上も喜ばれたことだろう。あれで兄上もかなり反省されておったからな」
美琴を含め十二人で国内に増えた『邪心』を洗浄するのはなかなかに大変だ。
巨額な報酬を受け取り定期的に休みも取れているのでブラック企業とまでは言えないが、長期の休みが無いのはかなりきつい。
社会人になり一般企業に務めていた美琴は、盆休みや年末年始には有給休暇も使ってまとまった休みを取っていたのだ。
暦(こよみ)の都合で年に何度か迎える三連休も、リフレッシュするには良い機会だった。
当分の間スケジュールがビッシリと詰まっており、ハルとも会えない日々が続くのが何よりも辛く、環境の変化に孤独を感じていた。
そんなやり切れない思いを抱えて過ごしていたある日、王宮の庭園を散歩しているところに第二王子のアンソニーが現れて、ハルへの暴挙を謝った。
それ以来彼が美琴の支えとなって、励まし慰めるようになると、アンソニーの人柄を見直した美琴は、純粋な彼の姿に惹かれていった。
「美琴は、僕と同じで今まで本気の恋をしたことがなかったんです。だから彼女が恋を知って幸せになることが、僕にとっても幸せなんですよ」
「ハルは友達想いなんだな。恋な……。そう言えばこの二週間、ハルは回復アイテムを作るために自ら魔術師棟を訪れていたそうだな。……それなのに褒美を強請らなかったのは何故だ?」
「……何だか、その……自分の下卑た気持ちが恥ずかしくなったんです」
「ん?……何だ?……時間はたっぷりあるからな、話してみろ」
「はい、団長」
ハルはリバーダルスに出会った瞬間から惹かれる何かが有り離れたくない、離したくないと頭の中で本能が叫んでいた。
直ぐに好きだと思い説明のつきようがない感情で全身に鳥肌が立っていたのも事実だ。
しかし今なら彼の好きな所を話せと言われれば、外見だけではなく、誠実で情が深いところや生真面目だがお茶目な一面も持っているところなど、次々に言葉が溢れてくる。
そしてこの人の愛するものの為に役に立ちたい、と思えるほど慕う気持ちが湧いて、今では尊敬する傍ら愛しいと思うようになった。
こんな感覚は初めてだと大いに戸惑ったハルだが、これこそ人を愛する恋心だと気付いて以来、交換条件を出す自分の下卑た気持ちが恥ずかしくなり、ハルは褒美を強請らずに二週間が過ぎたことを時間を掛けて話し終えた。
「なんだ……俺に飽きたわけではなかったのか」
「は?んなわけないじゃないですか!褒美は強請らなくなりましたけど、抑えきれずに好きな気持ちは溢れていたと思うんですけどね?」
「そうだったのか……出会ってから結構経つのに……俺は何の努力もしていないのに、まだ好きで居続けたのか」
信じられないと驚くリバーダルスを見たハルは、こちらこそ驚きですよと反撃に出て、彼がネガティブになる原因を問うた。
「……昔話として俺の恋愛話を聞いてくれないか」
「是非!聞かせてください!」
リバーダルスは自分を欲しがり褒美を強請っていたハルが、それを辞めたことを心変わりしたのだと思い込んでいた。
王子である自分に臆することなく熱烈に求めてくるハルを憎からず思っていたリバーダルスは、人の気持ちはこうも簡単に変わるのかと残念に思っていた。
逞しい見た目に反してかなりの乙女思考であるリバーダルスは、一途な愛に憧れている。
しかし、そもそも自分から好きになったことなどなかった。
十三歳から十八歳まで王立学園に通っていた頃、王子としてでは無くただの同級生として扱ってくれる者に接して嬉しく思っていた。
その頃好きだと告白をされ何人かとお付き合いはしたものの、一途な愛に憧れている割にはその付き合いを保つ方法が分からず、努力の仕様がなかった為に、熱を感じないリバーダルスへ一抹の寂しさを覚えた恋人たちは、自ら彼の元を去っていった。
そこまで一気に話すと苦い過去を思い出したのか秀麗な美貌に悲しみの影が落ちた。
「クリスには、君は自分から好きにならなきゃ熱くなれないタイプだろうから、無理して付き合ったり好きになろうとするのはやめろと言われたよ」
「僕も好きな気持ちをコントロールなんて出来ないですよ」
「そうだな。頑張って好きになってもらうなど、相手にとっちゃ喜ぶどころか心を痛めるだけだ」
「確かに、そうかもしれませんね。……団長、話の続きを……」
クリスの言葉を聞いて、お互いが好き合うのでは無く、好きになってやろうと自分が上から目線だったことに気がつき、恋愛する資格はないと反省した。
それが十七歳の誕生日の時で、それ以来やりきれない気持ちを剣にぶつけるうちに幼い頃から剣筋のよかったリバーダルスは、鍛錬を重ねてどんどん力をつけていった。
同年、十年に一度の騎士闘技大会が開かれ、王命により出場したリバーダルスは、見事圧勝し男女問わずモテモテになったが、相手の一時的な熱に本気になれるとも思えず全てを断った。
卒業後も士官学校で鍛錬を積み重ねた後、特別騎士団に入り、団長として仕事に没頭し続けた為、誰ともお付き合いはしていない。
「なるほどね……でも僕の気持ちを軽く見ないでくださいよ。確かに最初は団長の凛々しい顔と逞しい身体に惚れましたけど、団長の仕事への熱意や部下に対する情の深さにメロメロになったんですよ!」
「お、まえ、なかなか恥ずかしいことをベラベラとよく喋れるな」
「だってはっきり伝えないと分かってもらえないじゃないですか。僕の恋心を疑ったバツとして、これからは遠慮なく褒美を強請りますからね!」
「分かった……はぁ。なんなんだ。お前が心変わりをしたのでは無いと分かったら、妙に安心している俺がいる」
「ははっ、団長ってば案外寂しがり屋なんですね。もう、これからは嫌という程愛情をぶつけて行きますから!ゆっくり僕に堕ちてきて下さい」
「なんというか、こういう時だけ男らしいんだな」
「団長は乙女チックで、可愛いですよ」
ふふっと笑ったハルの顔から幼さが抜け、急に雄を丸出しにしてきたことにリバーダルスは焦りだし、長椅子から勢いよく立ち上がった。
「なっ、何を言っているんだ。今日使った分の魔力を蓄えておくためにも早く寝ろ」
「分かりました。今日の褒美は王城に帰ってからたっぷり頂きますね。……では今は景気づけにキスでもしてーー」
「早く寝ろ。このクソガキ!」
リバーダルスは赤い顔を広い肩幅で隠しながら火魔法を解くと、ここは寒くなるぞと忠告することは忘れずに、さっさと武器庫から出て行った。
「ぷっ。照れてるのかな?」
ハルはリバーダルスに出会ってから今まで、こんなにも好きなのにどうして上手く伝わらないのかと、モヤモヤしていたのが一気に吹き飛んでスッキリし、騎士塔へ戻ると心地よく眠りについた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
39 / 81