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優勝金の行方-1
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「第一回 魔術師闘技大会 優勝者 フジョーシ国代表・ハル殿ーー」
今大会の出場者全員が参加した表彰式では、なかなかお目にかかる機会のない魔術師の顔が揃い、試合同様の熱気に溢れている。
表彰台にハルが登ると割れんばかりの歓声が起こり、隣でまだ頬を赤く染めているバームにも、闘技が終わったにも関わらず暖かい声援が送られていた。
「ハル……素晴らしい戦いであった。ハルが披露した魔術は皆に影響を与え、次に開かれる魔術師闘技大会に向けて、益々力を磨くことであろう。今後も更に盛り上がることを期待する。……おめでとう」
国王・ミカエルから首にメダルがかけられた後、ずっしりと重いトロフィーと、副賞として更に重たい金貨袋を手渡されたハルは、両腕が痺れてフラフラになっている。
表彰式が終わると国王・ミカエルから閉会の言葉が読み上げられ、出場者全員が良く躾られた馬に跨り、闘技場を一周しながら観客達へ挨拶をした後退場していった。
未だに馬の一人乗りが危ういハルは、色んな魔術師から同乗を持ちかけられたが、丁寧にお断りをして迷うこと無くリバーダルスを指名した。
「あのな……馬くらい一人で乗れるようになれよ」
苦笑いをしているリバーダルスも心の内ではハルを見直して、最高のフィナーレに参加出来たことを喜んでいる。
「へへっ。僕は馬に乗るよりも団長に乗りたいですーー、ぐへっ、痛いですよ!」
相変わらず下品なハルの物言いに呆れたリバーダルスが後ろから頭を叩くと、痛いと言いながらもデレた顔をするハルに、周りからは生暖かい目が向けられた。
「あーあ。あの調子だと僕が告白しても無理そうだな」
「そうだな……ハルの目にはリバーダルス殿下しか映っていないようだ」
ハルに心酔した魔術師達が、大会後に告白をしようと意気込んでいたのだが、二人の様子を見て自分が入り込む隙は無さそうだと、溜め息を吐いて諦めた。
*
「なんだこりゃああああぁぁぁ!!!」
閉会式も無事に終わった夕暮れ時、王城の裏口ではスコットから賭博で得た金貨袋を幾つも受け取ったハルが、あまりにもの多さに悲鳴を上げている。
「因みにこれってどれくらいの価値があるの?」
「そうですね……今回の優勝金と合わせると、王都の高級住宅街で大きな屋敷が余裕で三軒は買える量です。私もハル様のおかげでかなりの額を手に入れました。ありがとうございます」
「うげっ、マジかよ」
頭を抱えて地面に並べられた金貨袋を眺めながら、スコットに礼を述べて別れたあと、門番が心配気に見ていることに気がついたハルは、台車を持ち出して重い金貨袋を乗せると、第二王子であるアンソニーの元を訪れた。
「アンソニー殿下。このお金を福祉に力を入れている、貴方に託したいと思います」
「それはまことか?」
驚くアンソニーにしっかり頷くと、ハルの思いを語った。
例えばこのお金で高級菓子を買い、孤児院の子供たちに配ればそれはそれで喜ばれると思う。しかしそれは一時的なものであり後には思い出しか残らない。
「僕はもっと長期的に彼らを救うことに使って欲しいのです。例えばーー」
此方の世界にまだ詳しくないハルも色々と思考を巡らせて、彼なりの意見を述べていく。
例えば工場などで使用される機械を購入して、孤児院の子供たちに使い方を教えて手に職を付けていく。
そうすれば将来彼らが孤児院を出た後も、安定した職に就くことが出来、将来の不安を無くすことが出来るのでは無いかと提案した。
「なるほど……それは良い考えだな。良ければ他にも意見を聞かせてもらえないだろうか」
アンソニーの言葉を聞いて再び考えたハルは、既に行われているかも知れませんが、と前置きをしてから話し出した。
ハルの報酬だけでは無理かもしれないが、国の予算で色んなジャンルの職業訓練所を立ち上げ、皆が技術を磨いていくと、働き口に困らない者達が増えていく。
そうすれば健康で元気な者達の労働力を得ることが出来、国が栄えるので利益も上がると予測される。
「国の利益を貧しい家庭や病気で働けない人達への援助として使えば、憂いている人達も減るのではないでしょうか?……生まれてきたことを後悔するような人を作りたくないのが僕の本音です」
真剣にハルの言葉を受け取ったアンソニーは、目を潤ませてハルの考えに感動すら覚えている。
「恥ずかしながら、我が国ではまだそこまでの福祉は徹底していない。ハルの意見はとても興味深い。これから積極的に取り入れていこうと思うよ。ハル、ありがとう」
ハルの手をしっかり握りながら礼を述べたアンソニーはとても暖かい目をしており、彼なら任せられるなと思ったハルは、本日の優勝金も後でお渡しします、と告げてから夕食をとるため騎士団棟へ戻った。
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