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ツナクレープに拘るハル-2
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翌朝ハルが食堂で野菜たっぷりのオムレツを頬張っていると、リバーダルスが城下街の様子を見る為に午後から出掛けることを知り、粘りに粘った結果お供をする権利を獲得した。
今回はなんの問題もなく用事を済ませた二人は以前約束した通り、副団長・クリスが足繁く通っているカフェへクレープを食べに来ている。
オシャレなクリスがいかにも好きそうな雰囲気の良いカフェは、ロビンという中年女性が切り盛りするなかなか繁盛した店だった。
アルバイトの店員がやや緊張気味にハル達を窓際の席へ案内すると、メニューを開いて丁寧に渡してくれた。
「ええぇぇぇぇ!!この世界にはマヨネーズは有るのにツナが無いなんて……ショックだ!!」
嘆くハルをみて申し訳なく思った店員が慌ててロビンを呼ぶと、彼女はどうしたものかと困惑している。
その様子を見てリバーダルスはため息を吐くと、コツンとハルの頭を小突いてからある提案をしてみる。
「こら!店の人を困らせるな。……どうしても食べたいのならそのツナと言うものの作り方をハルが伝授してやれば良いだろう」
「ごめんなさい……伝授?……なるほどね!僕も一度だけ母さんが作ってたのを見ていただけだから上手くいくか分からないけどやってみたいです……とにかく手作りツナは震えるほどの美味しさなんですよ!」
「まあ是非教えていただきたいですわ!」
此方では北の海でマグロが取れると聞いていたハルは、乗り気になったロビンにマグロを手に入れて欲しいと頼んだ。
たまたまその場に居合わせた魚屋の主人が急いでマグロの赤身を用意してロビンの店に持ち込む。
「他に準備するものは、オリーブオイル、にんにく、ローリエと……後は塩だけで充分です。オリーブオイルがなければ普通のサラダ油でも可能ですよ」
「あらあら、フジョーシ国はオリーブの特産地でも有名ですから、オリーブオイルなら簡単に手に入りますよ」
「それは良いですね!僕の住んでいた所ではオリーブオイルは高級品というイメージだったので、何だか嬉しいです」
まずはマグロの赤身全体に塩を振って時間を置く。
その間は若い頃、魚屋の店主がマグロ漁に出て船酔いで酷い目にあった話を聞いて盛り上がり、急遽料理教室と化したロビンの厨房は賑やかな場へと変化した。
「そろそろ水分を拭き取るのですが、そこの手ぬぐいを使っても良いですか?」
快く手渡してくれた手ぬぐいで素早く水気を取ると鍋に入れ、フォークで潰したにんにく二かけとローリエを二枚入れ、フジョーシ国自慢のオリーブオイルをひたひたに注ぐ。
火魔法の込められた魔石を調節して火力を中くらいに保つとボコボコとそこから気泡が出てくるまで待ち、そのあと弱火にしてから半刻ほど煮る。
魔石に手をかざして火を止めると、冷めるまで置いておく。
その間もロビンの息子の自慢話や他の客の恋愛相談などをしていたので退屈することなく時間はあっという間に過ぎた。
「いい感じに冷めましたね。本来なら油と一緒にタッパーに入れて冷蔵庫で冷やすんですが……手っ取り早く僕がやりましょう」
ハルが念を込めるとマグロの周りに氷の粒子を含んだ小さな竜巻が現れて、丁度いい具合に冷やしていく。
詠唱もなく簡単に魔術を使うハルを見て周りにいた者達はあっけに取られていたが、凄いものが見れたと魚屋の店主が騒ぎ出したのをきっかけに、厨房がお祭り騒ぎになってしまった。
「あー、そっか。この国では魔術師って少ないんだよね……」
歓声を上げる人々を見てハルが苦笑いをしていると、リバーダルスも苦笑しながら声をかけてきた。
「俺が指先に火を灯しても、これくらいの騒ぎになるんだ。本人達は喜んでいるのだから、良いじゃないか」
「はいっ!喜んで貰えるなら良かったです」
ハキハキと良い声で答えるハルにその場にいた連中も笑顔になり、これからの作業を楽しみにしている。
「後はこの煮たマグロを解してマヨネーズで和えるだけですよ!これをレタスやキューリと一緒にクレープに挟んで食べると、美味しすぎて感動しますから!」
ハルの力説を聞いて皆がゴクリと喉を鳴らしたのを見ると、ロビンが手早く『ツナクレープ』を幾つもこさえていく。
「さてさて、いよいよ味見ですな!!想像しただけでもヨダレが出そうですわい」
リバーダルスが材料費を始め全ての支払いをしてくれたので、ロビンはカフェにいた全員に『ツナクレープ』を振る舞い、これから試食することになった。
「では!!!実食!!!」
ハルの掛け声を聞いて皆が一斉に齧り付き、じっくりと咀嚼して味わうと、操られたかのように固まってしまった。
「ん?あのー、皆さんどうしました?団長までフリーズしちゃって……あまり美味しく無かったですか?」
ハルがしょぼんとしながら皆に聞くと、今度は店が揺らぐほど大騒ぎして、美味い美味いと褒め言葉が飛び交った。
「ほう。これは本当に美味いな」
「ちょっと団長!本当に美味いって、僕のことを信用してなかったんですね」
ムッとしたハルの膨らんだ頬をつつくと、悪かったと笑いながらロビン特性のカフェオレを差し出して飲ませてやる。
「おおお!このカフェオレも天下一品ですね!」
皆がツナクレープを気に入ってしまい、おかわりを要求するため、忙しなく追加分のツナクレープを作っていたロビンが一段落したのか、ハルの方へやって来た。
「ハル様。とても素敵なものを教えて下さりありがとうございます。……それで、良ければこの店で商品として売り出したいのですが……勿論レシピ代はお支払いします」
言いにくそうに話すロビンに何事かと思い焦っていたハルは、なんだそんなことかと言ってにっこり笑う。
「どうぞどうぞ!レシピ代なんて要りませんよ!って言うか是非売り込んで王都名物にしちゃってください!」
「まあまあ、なんて気前の良いお方なんでしょうか。本当にありがとうございます」
再び礼を言うロビンに便乗してカフェの客達までがハルに礼を言いに来たので、テーブルの周りは再び大騒ぎとなった。
『ツナクレープ』はハルが発案したものではなく、元の世界ではポピュラーな食べ物だったのだが、ハルの知らないところでは『ハルクレープ』と呼ばれて慕われることになり、瞬く間に噂が広がると本人が願ったとおり王都名物の仲間入りを果たした。
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