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洗浄師の活躍-1
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「特別騎士団に要請があった。これからジューン地方のヘーゼル村へ出発する。すぐに準備に取り掛かれ」
国王毒殺未遂事件より半月が経った頃、穏やかな日々を送っていたハル達だが、先週魔術師の中で救護チームが結成され、ヘーゼル村へ派遣されたことを知り不安を感じていた。
食堂で朝食を取っていると厳しい顔をしたリバーダルスから、助けに行った救護チームが次々に倒れたことを聞かされ、ヘーゼル村が原因の分からない疫病に犯されていることが告げられた。
「団長!!そんなに……事態は悪いんですか?」
「セルディ……残念ながら村の唯一の医師を始め、救護チームまで疫病に感染してしまった。作物も育たない地で、村は壊滅状態にある」
リバーダルスの言葉を聞いたセルディはよろよろと体勢を崩し、クリスが支えなければ座っていられないほど落ち込んでいる。
クリスはそんな彼の大きな体を撫でさすりながら、副団長補佐を務める直属の部下であるセルディについて、ハルにも分かるように説明を足した。
「ヘーゼル村はセルディの故郷なんだ。農業の栄えた豊かな村だったんだけどね……一昨年あたりから作物が育たなくなって、近頃では原因不明の疫病まで流行り出したんだ」
大家族の中で育ったから食事は戦いと同じ奪い合いだった、と笑顔で話していたセルディを思い出したハルは、彼が毎月ほとんどの給金を仕送りしている家族想いな青年だと知っている。
いても経っても居られなくなったハルは、早速準備をするために立ち上がった。
「どうかしましたか?」
魔術師棟の最上階には転移魔法専用の部屋が多く設置されており、これからヘーゼル村へと向かう特別騎士団員が集まっているのだが、リバーダルスとクリスが難しい顔をしながら何やら話し込んでいる。
眉を下げて困った様子のクリスがハルの問いに答えた。
「ヘーゼル村に一番近い魔法陣でも村から馬で三日は掛かるんだ。一刻を争うのにもどかしいと思ってね」
クリスの返答に成程と頷いたハルは全身が熱くなったのを感じ取り、閃いたことを言葉にしてみる。
「どうか僕のことを信じて下さい。直接ヘーゼル村へ転送します!」
部屋に集まっていた魔法騎士達はハルの言葉を聞いて驚いたのだが、数々の奇跡を起こしてきた経験のあるハルへ、期待の目を向けている。
肩を落として青白い顔をしたセルディは、血走った目を向けて「頼むよハル」と願い頭を下げた。
自分の責任のもとハルの指示に従うと決めたリバーダルスは、全てを異世界からやって来た大切な部下に任せることにした。
ハルは独自の魔法陣を描いたセルディの部屋へ魔法騎士達を集め、ぎゅうぎゅうになりながら説明を始めた。
「この魔方陣は出発専用で行先は決まっていません。しかし、僕の予測では必ずヘーゼル村へ転送出来ますから安心して下さい!」
心配は残るがハルに付いていくと決めた者達は静かに頷くと、ハルの行動を見守った。
「以前ジュリアス達を転送した時も、行き先だった幽閉塔には魔法陣はなかったんです。それでもちゃんと転移魔法は発動しましたからね!」
皆を納得させて落ち着かせるためには、実績のある過去の話を出して、ハルになら可能だということを印象づければ良いと思い、力強く語ることにする。
「セルディ。君の故郷を頭に思い浮かべてくれるかな?」
「……分かった」
目を瞑り生まれ育った故郷を思い出しているセルディは、懐かしさと不安で胸がいっぱいになり目尻が涙で濡れている。
「おっけー!魔法陣が反応した。そのまま僕の気持ちと繋がって欲しいんだ」
「繋がるって……どうやるの?」
困惑顔で問いかけたセルディの質問に、出来るだけ元気な声で答えていくハルは、誰から見ても自信満々で彼になら任せられると思えた。
ハルとセルディが共感したのはお互い肉好きならではの話で、以前王宮に招かれた食事会では唐揚げを食べながら、二人揃って美味い美味いと大騒ぎをしたものだ。
その時のことを思い出すだけで良いとハルが言うと、少し笑顔の戻ったセルディが分かったと頷いて過去を振り返っていった。
セルディの両手のひらの上に自分のものを重ねておくと、ハルも唐揚げではしゃいだ場面を思い出していく。
「うおおおおぉ!魔法陣が光だしたぞ!」
魔法騎士達がざわめき出したので天井を見上げれば、即席で描かれた魔法陣が紫色に光だし、一層強く光ると眩しさで目を開けていられなくなった。
光がおさまり次に目を開くとそこはのどかな田園風景が広がる場所で、セルディの喜ぶ姿を見てヘーゼル村への転移魔法が成功したのだと分かった。
「ハル!!凄いぞ!!」
リバーダルスに褒められてハルが凛々しく微笑むと、周りの仲間たちが驚きと感激で騒ぎ出したので、慌てて戒めておく。
「喜ぶのはまだ早いってば。皆さんすぐに村の中心部へ向かうよ。セルディ、道案内を頼む」
表情を引き締めたセルディが頷くと、彼のあとを追って救護チームが派遣された村の中心部へと足を進めた。
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